García Lorca por Sakazo Nakade 中出阪蔵ギターによる、ガルシア・ロルカ・インスピレーションワーク

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来春3月17日、東京オペラシティ・リサイタルホール公演の、第二部オープナーとして初演予定の新作ギターソロ、「シルヴェリオ・フランコネッティの肖像」を、明治時代生れの日本の名工・中出阪蔵(なかでさかぞう 1906-1993)さんが、1978年、恩師・鈴木巌先生のご紹介によって特別製作してくださったギターでプレイしたビデオ(限定公開)。
前回ご紹介したビデオは、大歌手・シルヴェリオさんや、19世紀のタブラオの写真や絵などを多く使って構成したが、今回の動画は、実際に僕が中出さんの楽器を使って演奏しているところをメインに作ってある(日本語字幕)。

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僕は現在、スペインの楽器を二台(イグナシオ・ローサス、ホアン・エルナンデス)、’およびアルゼンチンの楽器一台(グレゴリオ・カブラル)をメインギターとして使用しているが、今回の東京公演へは、これまで二回しかコンサートで使ったことのない(いずれもニューヨーク)、この中出さんのカスタムギターと一緒にゆく考えでいる。

その理由は、この動画の中出さんの楽器の音を聴いていただければ一目瞭然だろう。

イタリアの濃厚なハチミツと、アンダルシアのレモンが混ざり合い、そしてさらにそこに、アタウアルパ・ユパンキに通じる南米の静寂に満ちた深いエモーションが加わったシルヴェリオ・フランコネッティの歌声を表現できるのは、いまの僕にとって、中出阪蔵さんのギターをおいてほかにない。
誕生から、ほぼ45年という歳月が経過しているのにもかかわらず、この音色の輝かしさ、美しさ、そして豊かな音量のボリューム感は、ただただ信じがたい。

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この楽器は、20世紀前半にスペインで作られていた、いわゆるヴィンテージサイズと呼ばれるものと同じ型で、ヘッド部分で弦を巻きつける金属(マシンヘッド)のギアの間隔が長いため、それにあわせて楽器自体のサイズも若干大きくなっており、中出さんのギターをプレイしたあとで、最近作られた楽器を抱えてみると、少々小さく感じる。
もしかしたら、そこにこのサウンドの違いの秘密があるのかどうかはよくわからないが、とにかく、中、低、高、どのレンジも豊かで美しく響き、しかも指に喰いついてくるような感覚は、決して他のギターでは味わえないものがある。

入手しにくいマシンヘッドの一回交換(ゴトー【日系?】というメーカーが作っており、フロリダから取り寄せた)以外は、すべて1978年オリジナルの状態。
僕がつけたスクラッチは至る所に無数にあり、それなりに使用感があるが、自然に入ったヘアライン(割れ)はひとつもなく、材質はきれいそのもの。
中出さんがいかにこの楽器を丹念に仕上げてくださったかが、今になってよくわかる。

鈴木先生は、1978年、まだ少年だった僕が使っていた、ケースもないボロボロのギターをある日見て、”うわっ!こりゃひでえ!”と、叫ばれ、すぐに母に電話して、”いま史朗君のギターを見たが、これでは彼の才能が伸びない。僕の親しい製作家に中出阪蔵さんという素晴らしい人がいて、僕が頼むと15万円の楽器を11万5000円に値引いて作ってくれる。一生使えるギターになるので、ぜひ史朗君にこの楽器を作ってあげてください。”と、頼んでくださった。

15万円といえば、当時の貨幣価値から考えると、現在の30万円以上になる。
母も当時、僕と弟をかかえて仕事をはじめたばかりだったので、決して右から左にすぐに出るお金ではなかったはずだが、結局、おばあちゃんも加わった家族会議の末、このギターを僕にプレセントしてくれた。
これは、かなりあとになって、鈴木先生が教えてくださったことだが、このギターは、実際15万円のクオリティではなく、特別に25万円以上の材質を使って作っていただいたものだったそうだ。
先生が中出さんに、くれぐれもよろしくと頼んでくださったのだろう。

こんな良い師匠がほかにいるだろうか?!

下に写真を載せたが、実は中出さんからの領収書が今でも残っていて、これには鈴木先生もビックリされていた。
ギターは、丈夫なハードケースと一緒に納品されたが(鈴木先生が中出さんの中野のご自宅まで取りに行ってくださった)、領収書はそのなかに、最近まで、実に一度も誰の目にも触れることなく、ずっと長い間眠っていた。

東京オペラシティ・リサイタルホール公演、もう、鈴木先生に会場に来ていただけないのは残念だが、先生はきっと僕のそばにやってきて聴いてくださると信じている。

僕自身、上演芸術のアーティストとして、いまも誰よりも素晴らしいと思うアントニオ・ガデスからの、”シローへ、同士より挨拶”とメッセージがサインとともに書き込まれた宝物ギター。

どうぞ来春3月17日、いまからご予定下さい!