'私を旅立たせないでおくれ 老いたアルガローボよ'  

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 XIII

今回のニューヨーク公演における全プログラム中、これがアメリカにおいての正式初演となる'ヒロシマ~忘れえぬ町'、そしてヴィラ=ロボスの'ギター協奏曲'とならんでハイライトのひとつとなるのが、第3部の冒頭で、私の奏でるバッハの'サラバンド'をバックに、朗読の名手アデラ・ペラルタさんによって読み上げられるユパンキの傑作詩、'私を旅立たせないでおくれ、老いたアルガローボの木よ、'です。




(写真上) アルゼンチンの国樹、アルガローボ(いなご豆の木)


(写真下) 4日後のニューヨーク公演にむけて、'私を旅立たせないでおくれ、老いたアルガローボの木よ'をリハーサルするアデラ・ペラルタさんと私

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私を旅立たせないでおくれ 老いたアルガローボの木よ


                         (アタウアルパ・ユパンキ)
                          


老いたアルガローボの木よ 私を旅立たせないでおくれ
おまえの優しい影のうえに囲いをつくって 
そして 悲しみが小鳥へと姿を変える おまえの静かな根に私をむすびつけて 
私が歩き出せないようにしておくれ


道と 山と 森と 海と 草原と 
そして砂地に満ちた土地から 
私は平穏な世界をもとめてやってきた
こんな私の悲しみを癒す巣を おまえの枝のうえにつくっておくれ


ひとつの場所にとどまろうとすると 
いつも風が吹き 夜が現われ私をさらう
そして*ヤラビの調べが路傍の石たちをおしのけると 
私は手を高く上げ 別れをつげて歩き出す


老いたアルガローボよ 
静かな夕べに 私はいくたびおまえを見てきたことだろう
まるでそよ風の口づけのような 甘い香りのおまえの影を 
そしておまえの強さとを 私はいくたび見てきたのだろう


私を旅立たせないでおくれ 老いたアルガローボの木よ
そうしなければ もう二度とおまえに会えることはないだろう
川が私を呼んでいる
私の昔なじみの悲しみを知る あの谷を流れる深い川が


おまえのもとで 
私はこれまで歩いてきたすべての道と 
まるでねばり強いつる草のように結ばれてきた
しかしもはやそれらも これ以上風にそよぐことはないだろう 
老いたアルガローボよ 
私はいま 砂地をひとり素足で去ってゆく 


*アンデス先住民たちの民謡のひとつ

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アデラ・ペラルタさんは、アルゼンチンのコルドバ州出身。
少女時代からずっと音楽の勉強をしていましたが、父親の意に沿い音楽家にはならず渡米。
医学の道へと進んだ人です。


現在、米国ニュージャージー州で、もっとも優れた内科医のひとりに数えられるドクター業を本業とするかたわら芸術をこよなく愛し、これまでニューヨーク・エリアで数多くのコンサートをオーガナイズしてきました。

2004年には、ついにクリニックの上階に、今回私たちが全面的にリハーサルで使用している多目的スペース'テアトロ・アルフォンシーナ・ストルニ'をオープン。
多くの芸術家たちをサポートする素晴らしい女性です。


また、かつて朗読のコンテストで何度もチャンピオンになった経歴の持ち主で、その、ご自身愛してやまないユパンキの作品のレシタシオンにおいては、彼女の右に出る者はいないと私は思っています。
今回のコンサートでは、彼女のエモーショナルな力強い朗読をすべてのお客様に堪能していただけると確信しています。


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アデラ・ペラルタさんの朗読とともに、バッハのサラバンド(無伴奏ヴァイオリン組曲BWV1001)、そしてプレリュード(リュート組曲BWV996)を弾く私

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こちらはやはりアルゼンチンのヴェテランピアニスト、ネリダ・サンチェスさんとヴィラ=ロボスの'ギター協奏曲'をリハーサル。
今回のコンサートの第三部はBig Fun!
私にとってキャリア上はじめての、オール・クラシックギターのレパートリーによるプログラムとなります。


私自身によるバッハの"プレリュードBWV996"は、こちらのページでお楽しみいただけます。

2008年10月01日 | El Mundo Maravilloso de Las Poesias(素晴らしき詩想の世界)