シロ・プレイズ "フランシスコ・タレガ" II


バッハの"プレリュードBWV996"、そしてタレガの"ラグリマ(涙)"と続いたクラシック・スペシャル。
お楽しみいただけましたか?


今日はそのファイナル・ショウダウン。


私が、その様式美にあふれたドラマティックな曲想とスペクタクル性において、特に抜きんでていると思ういくつかのクラシックギター作品の中でも、アグスティン・バリオス・マンゴレの"ラ・カテドラル(大聖堂)"、そしてエイトル・ヴィラ=ロボスの"五つのプレリュード"とならんでもっとも好きなナンバー、フランシスコ・タレガの"アラビア風奇想曲"をお聴きいただきます。


(コンサートのプログラムとして演奏したことはいままで一度もありませんが、本番前のサウンドチェックにおいて、必ず一度か二度全編とおして弾くのがこのナンバー。 写真は、カーネギー・ワイル・リサイタルホールのステージで"アラビア風奇想曲"をリハーサル中の私です。)

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"ラ・カテドラル"、"五つのプレリュード"同様、この"アラビア風奇想曲"も、ギターならではの美しい響きを熟知し、そしてなによりもこよなく愛した名手によって書かれた作品。

甘美な余韻に満ち溢れた美しいメロディーラインと、時折それを打ち破るかのように現われるエキゾティックな速いパッセージは、まさにギターのみでしか表現できない独自のサウンドワールドです。


私は、14歳のときにこのナンバーをはじめてレコードで聴き、息がとまるような激しい感動に全身を包まれると、もういてもたってもいられなくなり、そのままありったけのお小遣いを手に一目散に渋谷の楽器店の楽譜売り場にかけこみました。
そして手に取った一冊の曲集。
それは、日本のある名演奏家によって編集されたクラシックギターの名曲集でした。
そのときの喜びはいまでも忘れられません。
私の前に閉まっていた扉が広く開き、夢にあこがれるスペインの景色が見えたかのような瞬間。
私は買ったばかりの楽譜を、まるで宝物でも抱くように、大事にかかえて帰宅しました。


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翌日から私は、いたるところにギターと宝物の曲集をもって歩くようになりました。


当時私は、かなりの勢いでマセており、髪の毛を長くのばしてスペイン風を気取ったりしていましたが、下級生の女の子たちにはわりあい人気があったようで、いつも下駄箱のなかに手編みのマフラーや贈り物がたくさんはいっていました。


私が年下の女の子たちを前に、「ナルシソ・イエペスの弾く"入り江のざわめき"を聴いたことある?たとえ日本の音楽が総結集してかかっても、ぜんぜん太刀打ちできないすごい芸術なんだ。」などと言えば、彼女たちは、「えーっ、ナルヘソ?ふーん、なるへそなるへそー。」などとニコニコして、今思うとなんとも他愛のない光景だったと思いますが、もう私の頭の中には、いったいどうすればスペインのギターの名手たちのようにギターを奏でられるのかということしかありませんでした。


校庭のかたすみにあった水飲み台にギターを抱えて腰掛け、その前に女の子たちを座らせて弾いた"入江のざわめき"や"アラビア風奇想曲"、さらに、ホセ・フェリシアーノの"雨のささやき"や"ハイヒール・スニーカーズ"といったナンバー。
そしてコンサートのあとはといえば、毎回恒例。私の上瞼のマツ毛のうえに、シャープペンシルの替芯が何本のるかの実験でキャッキャと騒いだり...。

いまもし、このときの写真やフィルムでもあれば本当にに楽しいと思いますけれど、思えばこれこそが、私が行った最初のギターリサイタルでした。


こうして片時も手放すことのなかったギター曲集との出会いは、当時、夢にまであこがれていたスペインと私とを決定的に結ぶものとなりました。
そしてそれは、同時に、のちに私にとって最大の恩師となる、鈴木巌先生との最初の出会いだったのです。


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16歳で鈴木先生の門下生となった私は、それから5年間に渡り、毎週一回必ずレッスンに通い、先生は、古典から現代にいたるまで、香り高い名曲の数々を丁寧に手ほどきしてくださいました。
そのテクニックと音楽性は、のちに鈴木先生のもとを離れてアメリカに渡り、南米フォルクローレをベースにしたギタリストとして活動をはじめた私をしっかりと守り、いまも根底から支え続けてくれています。

鈴木先生は、なによりも美しい音の出し方を大切にする演奏家です。
私は、感受性の豊かな少年時に、この素晴らしい恩師に出会えたことをなによりも嬉しく思っています。


それでは、私の原点ともいえる"アラビア風奇想曲"。
短時間内での一発録りなため、いきおいあまっているところも多々ありますが、私にとって、ユパンキ、そしてヴィラ=ロボスと同様に敬愛してやまない、今年2009年が、その没後100年を記念する、スペインの近代ギター音楽の父、フランシスコ・タレガへの万感の思いをこめて演奏しました。


ウェッブサイトならではのBIG FUNとして、どうぞお楽しみください。


2008年4月、鈴木巌先生とともに、広島世界平和記念聖堂にて。

2009年03月23日 | Audio(楽曲の試聴)