ニューヨーク湾に響く'ヴィラ=ロボスへの祈り'
在NYアルゼンチン総領事館の主催によって行ったスペシャルコンサートの余韻もさめやらぬまま、そのちょうど一週間後となる8月13日の夜、上質のクラシック音楽を、息を呑むようなニューヨークの夜景とともに聴衆に贈る、イーストリヴァーに浮かぶエキサイティング・スポット"バージミュージック"の招待を受けてリサイタルを行いました。
当夜の聴衆は、アルゼンチン総領事館のオーデトリアムとはガラリとムードが変わり、会場を埋めた人々の大半はアメリカン・ニューヨーカー。
大勢のピュアーな音楽ファンが作る特有の和やかな雰囲気のなか、ユパンキ・ナンバーに幕をあけ、場内大合唱となったアンコールの'コンドルは飛んでゆく'で幕を閉じるまでの、約2時間にわたる大パフォーマンスが成功裡に終了しました。
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今日は、私の'バージミュージック'公演訪問をかねた、ブルックリンのフルトン・フェリー・ランディング、ニューヨーク港散歩に、しばしの間おつきあいください。
トップの公演プログラムは、右クリックのオープンリンクによってフルサイズでご覧いただけます。
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'バージミュージック'は、そのものズバリ'音楽屋形船'。
ここに音楽を楽しみに来る人々は、みなこの停泊船の乗船客となります。
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ちょっと小さいですけれど、上の写真の奥に写っている帽子の女性が、私のレプレゼンタティヴ(マネージャー)のドロシーさん。
彼女は、ボストン生まれのニューヨーカー。
パフォーミング・アーツの殿堂であるリンカーンセンターのアートディヴィジョンにおいて、長年ディレクターをつとめた人ですが、ミュージシャンのマネージャー業も傍らに行い、決してその数は多くはありませんけれど、彼女自身、"これは!"と信じたミュージシャンを、これまでに何人か世に送り出しています。
ドロシーさんは、
"シロの音楽はまるで美しい絵画のよう。小さなブラシによる小さなストロークが、とてつもないインパクトのある色とラインを生み出し、スケールの大きい一枚の絵となって人の心にしみこむ。 これは、ごく限られた人にしか与えられない素晴らしい神からのギフト。私はその才能に日々インスパイヤーされ、そして魅了され続けている。"
と、言って、私がよりよい条件のもとで仕事ができるよう、そして、厄介な交渉沙汰に関わることなく、演奏とクリエイションに集中できるよう影で常に働いてくれている、現在の私にとっての最大の恩人です。
ご両親ともポルトガルの方だったので、若い頃は、グローリア・エステーファン風のさぞエキゾティックな美人だったと思いますが、なにしろカメラを向けるとサーッと逃げてしまう人なので、これは隠し撮り。
とにかくアクションがはやく、気がついたときにはすべてが'ダーン'。
私は彼女を、"オズの魔法使い"と呼んでいます。
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実は、この一週間の間に別の仕事でオハイオとニューヨークの往復があったため、若干、表情に疲れが出ていますが、この日は自宅から自分で車を運転して、少々早めに会場入り。
摩天楼が見下ろすニューヨークの海を見つめてリラックスしながら、いまからちょうど65年前に、公式招聘を受け、リオから船にのってこのニューヨーク湾にやってきた、私が敬愛してやまないブラジルの大作曲家、エイトル・ヴィラ=ロボスのことを考えたりしていました。
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これはリハーサル時のスナップです。
この席がどうやら特等席のよう。
午後8時の開演時には、音楽とともに、輝く宝石のようなダウンタウンの夜景が楽しめます。
なにしろ水上コンサートホール。
適度の揺れが心地よく、次のコンサートを行う会場では、なんだかこの揺れのないのが物足りなくなるかもしれません。
ただし'バージミュージック'、ニューヨーク湾が時化(しけ)の際は、そうとうスリルあふれる公演になることでしょう。
私はこの日、アルゼンチン(コルドバ)のグレゴリオ・カブラルさん、そしてスペイン(マドリード)のイグナシオ・ローサスさん製作による二台のギターを使用しました。
どちらも、演奏家である私に対する、製作者の心がこめられた、かけがえのない楽器です。
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そして、夜の帳が落ちた午後8時、コンサート開演。
どんな演奏家でも、"今日のあのナンバーの演奏、なんだか魂が乗り移ったみたいだった。"と、いう経験があると思います。
私のとって、この夜のそれは、ヴィラ=ロボスの傑作ギターソロ、'前奏曲第1番ホ短調'でした。
私は、'ニューヨーク・スカイラインメロディー'なるピアノ曲を作曲するほど、この大都市を愛した偉大なるブラジルの大作曲家が、背後で、まるで私の肩をかるくたたいてくれているような気分を味わいながら、なにかに憑かれたように、ギターの音をはじき出していました。
それにしても、私のバックに広がる夜の'ニューヨーク・スカイライン'の素晴らしさ!
午後8時の第一部開演時にステージに出て行った際、私自身、そのあまりの美しさに一瞬我を忘れてしまうほどでした。
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ヴィラ=ロボス来紐育65年、そして没後50年の今年。
この日は晴天ではありませんでしたが、雲の間から、ゆるやかな光がミステリアスに差し込む、なんだか不思議に心和む、とても心地よい一日でした。
この素晴らしい大都市で、こうしてクオリティーの高い演奏活動ができることは、本当に幸せなことだと思っています。
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Heitor Villa-Lobos
(Rio de Janeiro, Brazil 1887-1959)
2009年08月16日 | Shiro On Tour(ツアー & ライブ)