聖地に暮す鳥たちとの共演  マチュピチュ・コンサート

マチュピチュ・コンサートツアー記  -Parte Tercera-


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2007年、11月29日夕刻、私の奏でる、アタウアルパ・ユパンキの名作、'栗毛の馬'のイントロダクションが、マチュピチュの遺跡を背後からいまも見守る雄大なワイナピチュの峰に響きました。


数ある世界遺産でもトップの人気度を誇るマチュピチュの神秘の空間、そしてかの地で行われたスペシャル・コンサートへと皆様をご案内します。

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(左) 遺跡内からインカ道を登ること約一時間、インティプンク(太陽の門)から望むマチュピチュ全景。
写真右下を流れるのがウルバンバ川で、ここにはアグアス・カリエンテスと呼ばれる温泉町があります。

クスコからマチュピチュにやってくる列車は、すべてこの町が終点。
ジグザグ道は、アグアス・カリエンテスとマチュピチュの入り口および、今回のコンサート会場であり、また私たちが宿泊をした、かの地唯一の最高級ホテル、サンクチュアリ・ロッジとを結ぶ、ハイラム・ビンガム・ロードです。

(右) インティプンクにて。
ここはすでに標高2700メートルを超えていますが、豊かに茂る木々や草花が生み出すさわやかな風のおかげで、まったく息がきれることはありません。
岩陰につばめの巣を見つけたかと思えば、目の前をハチドリが舞ってゆく大自然の宝庫。
なんだか夏の軽井沢の碓氷峠を思わせるような、実に快適な気候です。

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サンクチュアリ・ロッジに宿泊する利点は、ただラグジュリアスな気分を味わえることだけではありません。

なにしろ遺跡の入り口に建つこのホテル。
まだ、麓から観光客をのせたバスが大挙しておしよせてくる前の朝の時間帯に、人気のない神秘的なマチュピチュの雰囲気を存分に楽しむことができるのが、なんといっても最大のアドバンテージ・ポイントです。

この時間、遺跡内はほぼ貸切状態。
からだに優しく香る大気に酔いながら、私は時間を忘れて歩き回りました。



(左) マチュピチュ遺跡内、かつて人々が暮していたといわれる居住区エリアにおいて、いちばん高いところにある神聖な場所、'インティワタナ(太陽をつなぎとめる場所)'。

(右) 私のいちばんのお気に入りは'コンドルの神殿'。
まるで翼をひろげたインカの守護神、巨大なコンドルがそこにいるかのようです。


遺跡内でのんびりと過ごすリャマたち。
とにかく人がごちゃごちゃといないのがいいですネ。


コンサート当日の朝はやく、こんなに歩き回ったことは生まれてはじめてでした。



マチュピチュは、標高2400メートルの高山に位置しますが、ペルーの中部山岳地帯と東部のジャングル地帯のちょうど真ん中にまたがっているため、ここに育つ植物は実にさまざま。
地理学的に見ても、たいへん魅力にあふれる土地といえるでしょう。


ワイナピチュを一望に見わたせるサンクチュアリ・ロッジのガーデンと、用意していただいた、私の宿泊兼ドレッシングルームとなったスイート・ルーム。

この部屋に二連泊したという人も、史上決して多くはないはず...。



午後、コンサートの準備がはじめられます。
はるかなるワイナピチュに見守られながら、軽くギターを弾きはじめる私。

今回のスペシャル・コンサートで、私のバックアップをしてくれるのが、ペルーのアンデス音楽グループ、'アルモニア(ハーモニー)'の面々。


私といっしょに写っている青年はペルシー。
ケーナとサンポーニャの名手です。
右に座っているのはチャランゴ担当のハビエル。
私のギター、'グレゴリオ・カブラル'を、"アルゼンチンのギターか。こりゃあナチュラルな音だ...。"と、驚嘆しながら弾いています。
私も彼のチャランゴに'ひと弾き惚れ'。
"交換しようか?”などとも...。


'アルモニア'のメンバーと、コンサートのクライマックスで演奏する'コンドルは飛んでゆく'、'花祭り'、そして'ポーコ・ア・ポーコ'の最終リハーサル。


グループのリーダーであるヤミル・メンドーサと、ギターのアンジェロとは、前日クスコで顔をあわせていましたが、多くの南米の音楽家との演奏経験をもつ私は、ひと目で彼らが優れたプレイヤーたちであることを把握。

彼らは少ない時間で、私のアレンジ構成と意図をのみこむと、完璧な演奏を披露してくれました。



午後5時、マチュピチュ・スペシャルコンサートの幕開けです。

ポンチョをまとった正装の'アルモニア'。
左からペルシー(ケーナ、サンポーニャ)、ハビエル(チャランゴ)、ヤミル(ボンボ)、そしてアンジェロ(ギター)。

オープニングはアンデス・フォルクローレの名曲、'太陽の乙女'でスタート。
ケーナのなんともいえない響きが山々にこだまします。


(左) 続いて登場、'白いインディオ'、シロ・エル・アリエーロ。
アタウアルパ・ユパンキの名曲、'栗毛の馬'、そしてオリジナルギターソロ、'ラ・サンティアゲーニャ'、オーセンティックなアルゼンチン・スタイルでセットの幕開けです。

(右) ユパンキの傑作、'インディオの道'。

"星と谷間を結ぶインディオの道よ それは私の祖先たちが パチャママが大地の影に身をかくすまえに 南から北へと歩いた道だ"


アンデス・フレーヴァーいっぱいのギターソロ2曲、ユパンキの'熟れたトウモロコシの踊り'、そして私のオリジナルの'パチャママの踊り'をたてつづけに演奏。

このとき、それまで静けさをたもっていた鳥たちが、私たちのまわりで突然美しい声で歌いだしました。
それは決して偶然ではなく、彼らはギターの音楽を聴いてなにかを感じ、そしていっしょに歌いだしたのです。


私にとって、マチュピチュのエネルギーやメッセージをもつものは、遺跡内に点在する石のオブジェではなく、そこに暮す植物や動物たちでした。


鳥たちの歌声に導かれるように弾いた'パチャママの踊り'。
私はいままでこのナンバーを、こんなに不思議な気持ちで演奏したことはありません。
それは本当に、魔法にでもかかってしまったかのような瞬間だったのです。


これは、今後の私のギター演奏にも、大きな変化をもたらしてくれるにちがいありません。
私はこれから、どんなときもきっと、このときの鳥たちの歌声を思い出しながらギターを弾いてゆくことでしょう。



そしてクライマックス。
'アルモニア'の面々にぐるりと囲まれ、'コンドルは飛んでゆく'を披露。
ヤミル、ペルシーのツイン・ケーナが、すっかり日の落ちたマチュピチュの大気に融けこんでゆきます。

'インカよ お前は太陽の子!'



コンサートのあとは、サンクチュアリ・ロッジのダイニングルームに場所を移し、'アルモニア'とその仲間たちによる'バイレ・フォルクロリコ(民族舞踊)'のディナーショー。

さらなる追加写真はこちらをどうぞ。


私はご招待を受けて演奏する側でしたので、こんなことを言うのはおかしいかもしれませんが、南米各国においてこれまで数多くの素晴らしいプレゼンテーションによる公演を行ってきた私にとっても、今回のグローバルユースビューローの、ひとつのエンターテインメントを創りあげる企画力と実行力、それはまさに完璧のひとことにつきるトップ・グレードなものでした。


約一年半にわたって準備がすすめられてきたスペクタクルは、今日、大成功という結果を産み、無事終了することができたのです。

また、11月の末といえば、ただでさえ変化の激しい山の気候にくわえて雨季シーズンということで、いつ雨に降られてもおかしくない状況にもかかわらず、この日にかぎって一日中信じられないような快晴日和。


この地に暮す鳥や動物、植物たち、そして風、さらにそれらに心を宿すインカの魂がわれわれを守ってくれたのだと私は信じて疑いません。

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今回の公演の記念として、ペルーの観光省から特別に贈られた、同国の優れたアーティスト製作による陶器。
カメラのフラッシュの関係で上部がかなり明るい色に写ってしまいましたが、実際はもっと濃い、なんともいえない深みを持つ藍色で、見ているとひきこまれそうな力をもっています。


私はこの美しい思い出の品とともに、この日のことを一生涯忘れることはないでしょう。

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