中出阪蔵さんの素晴らしいギター、組曲「血の婚礼」初演に向けて

2025年1月26日、東京麻布十番の超人気料理店「富麗華」スペシャルコンサートにて初演予定の、序曲と全四楽章構成をもつ新作ギター組曲「血の婚礼」。

これは、今回使用するギター(中出阪蔵、1978年)によるオープニング序曲(中間部)の自宅リハーサル動画。

弦は、いつもお世話になるクロサワ楽器日本総本店クラシックギターフロアの渡辺泰弘店長からいただいて、今回初めて使ったラミレスのノーマルテンションだが、このギターにものすごくフィットするようだ。

スペインと南米のちょうど中間のような、光と影に満ちた憂いのある、それでいて芯の強い深いサウンドは、現在生産されるギターでは出せない。
誕生からほぼ50年が経とうとする中出さんのギターが、いかに優れているかよくお分かりいただけると思う。

日本に、明治時代生まれのこんな素晴らしいギターの名工がいたとは、まさに驚きだ。

優れたスペインの楽器ホアン・エルナンデスとの出会いをはじめ、現在の僕のクリエイションに、クロサワ楽器は本当に大きなアジュダ(ヘルプ)をしてくれている。

この場を借りて、渡辺店長に心からの感謝の意を表します。

今から46年前の中出阪蔵さん直筆の領収書を、僕はまだ持っている。

もちろん僕がお金を出せるわけはない。当時、離婚して仕事を始めたばかりの母も、月1万円の月謝の他に10万円のさらなる出費は、もちろん右から左というわけではなかった。

これは誰よりも僕を愛してくれた、母方のおばあちゃんが、貯金をつかって買ってくれたものだ。

僕が当時弾いていたギターは、とにかくボロボロだった。

「どんな楽器を使っているのか持ってきてみなさい」と、ある日恩師・鈴木巌先生が言うので、持っていったときの先生の「うわっ!こりゃひでえ!」と叫んだ顔は、今でも忘れられない。
ケースもなかったので、いつも学校には(小林旭よろしく❗️)裸でかついで登校していた。

(鈴木巌先生と、2008年、広島世界平和記念聖堂で行われたジョイントコンサート直前のスナップ。)

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鈴木先生は、そのすぐ後に母に電話して、「今史朗くんのギターをみたが、これではせっかくの才能が伸びない。僕の親しい製作家に中出阪蔵さんという素晴らしい人がいて、僕が頼めば割引で手工楽器を作ってくれる。一生いい音で鳴ってくれるものになるので是非買ってあげてください。」と、言ってくださった。

というわけで、このギターは、鈴木巌先生が特別に中出さんにお願いして、本来15万円の価格のものを、11万5000円で作ったくださったと聞いていたが、「実はあれは25万円のクラスだったんだよ」と、後になって鈴木先生はおっしゃった。

1970年代の日本で25万円のギターといえば、今の貨幣価値でどれだけの額になるのかわからないが、いずれにせよ10代のハナタレ・お振袖衆が簡単に持てるようなものではない。

口利き料を余計に上乗せして生徒から取ったり、製作者からキックバックをもらったりする先生たちが多いなか、鈴木巌先生は、「中出さんと親しい自分の顔で、一生使える優れた楽器を安く作ってもらえるから」と言って、あくまでも門弟を大切にする、極めて尊敬できる人物だったと改めて思う。

一度学校で、悪友たちとこのギターを振り回していたとき、誤って床におっこどして表面に割れが入ってしまった(アホ!)のだが、鈴木先生はそのとき、ご自分で中出さんのところに僕のギターを持ってゆき、きれいに修理してきてくださった。

僕はそのとき、修理代を払わされた覚えがない…

こんな素晴らしい師匠が他にいるだろうか!

新作ギター組曲「血の婚礼」は、鈴木先生、中出さん、そしてこの楽器にメッセージとサインをしたためてくれた、不世出のバイラオール(男性フラメンコ舞踊手)、アントニオ・ガデスへのオマージュになる。

“シローへ、仲間より敬意をこめて、
A.ガデス 21-1-1995”

「富麗華」スペシャルコンサートは、アントニオ・ガデスがこのギターにメッセージを書き入れてくれてから、ちょうど30年を記念することになる。

暑中お見舞い申し上げます❣️