あるバイラオールへの肖像 ~アントニオ・ガデスへのオマージュ~

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来年1月26日、東京麻布十番のミシュラン2スターの超人気レストラン「富麗華」特別会場で行う公演では、タイトル曲の組曲「血の婚礼」初演の前に、もう一曲、ソロでアントニオ・ガデスに捧げるナンバーをプレイする。

「あるバイラオール(フラメンコダンサー)の肖像 ~アントニオ・ガデスへのオマージュ」。

上記のビデオは、その冒頭部分。

このソロの初演にあたって、日頃大変お世話になる東京のクロサワ楽器日本総本店クラシックギターフロアから、ホセ・ラミレス(スペイン)のクラシック弦をたくさんいただいた。

繊細で輝きのあるラミレスの弦は、中出阪蔵さん製作のギターによくフィットし、フラメンコともクラシックとも言えない独特の美しい響きで包んでくれたが、僕のアタックの強い右手フィンガリングのせいだろう。次第に高音第一弦の右指がヒットするエリアに細かいスクラッチが入り、音にザラつきが生じてきた。

ラミレスの弦は、かなりデリケートだ。

そこで第一弦のみ、これまで使用していたダダリオ(アメリカ)に張り替えたのが、このビデオの音。

大陸的な音筋の太いダダリオと、響きのバランスのよいラミレスがミックスして、ついに自分の理想のサウンドが得られた気がしている。

もう亡くなってしまわれたが、日本の画家・粟津杜子(あわづとこ)さんによる油彩「アントニオ・ガデスの肖像」。

杜子さんと知り合いだった僕の母が、この絵を買い、それを僕が譲り受け、現在ニューヨークの自宅に飾ってある。

杜子さんはガデスの大ファンだった。

1995年1月、来日したアントニオ・ガデス。中央が杜子さん。その向かって左横に僕の母もいる。
ガデスの横の背の高い女性は、元岩波ホール総支配人・故高野悦子さん。

杜子さんのご亭主(写真向かって左)は、ランボー研究第一人者のフランス文学者・粟津則雄さん。
今年(2024年)96歳で他界された。

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写真ではわかりにくいが、ガデスの肖像はポスターやリトグラフではなく、油彩による絵画。ただサイズが小さく、額に入っていないので、カードボードをあてがえばスーツケースに入れて持ち運びが可能。

来年1月26日のコンサートでは、この絵をステージに設置し、ダダリオとラミレスの弦を張った、偉大なる「バイラオール」からのメッセージとサインがしたためられた日本のギターを使用する。

実は、サインを入れてくれた直後、アントニオ・ガデスがギターを持ってニッコリしている写真もあったのだが、かつてニュージャージーでコンサートを行った際、控え室でギターケースに入れていたもの全て盗まれるという事件が起き、中にその写真も入っていた。
スキャナーも携帯カメラもない時代だったので、盗られた現物以外の記録もネガはも残っておらず、今でも残念に思っている。