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今秋11月13日、東京カテドラル聖マリア大聖堂における、バッハのプレルディウム(無伴奏チェロ組曲第5番)に独自のアレンジを施したソロ「ヒロシマ・レクイエム」初演に先立ち、ワシントンD.C.のスミソニアン航空宇宙博物館別館を訪れた。
目的は、現在常設展示されている、第二次大戦に使用され、広島に原爆投下を行ったB29爆撃機「エノーラ・ゲイ」を見るため。
空中通路から、操縦席が手に取るようによく見える。
これは複製レプリカではない。
まさに今から80年前、広島の14万人の民の命を奪ったその姿に、しばし言葉を失う。
スミソニアン別館は、博物館というより、むしろ格納庫という雰囲気。
いまにもプロペラが回り始め、どこかに向かって飛び立ってゆくかのように見える…
エノーラ・ゲイの右主翼の下には、覆い被されるように日本の零戦が数機展示されていて、反対左側には米軍戦闘機が並べてある。
なんとなく「ケンカ両成敗」といった雰囲気…
さすがに表情がかたい…
あとで写真を見て気付いたが、銀ピカの機体先端部(車輪格納部のフタ)に赤字で「周囲30メートル以内禁煙」とペイントされており、ゾッとした。
この写真でもわかるが、トップの、いちばん最初に掲載した写真で、それがよりよくわかる。
かつて広島を訪れたチェ(ゲバラ)は、ドームや資料館など視察したのち、同行した現地人に対し、“あんたたちはこんなことをされて腹が立たないのか?”とたずねたと聞くが、もし彼がエノーラ・ゲイをこの場で見たら、いったいなんと言うだろうかなどと考えた。
おみやげ屋には、合金製おもちゃが売られていて驚く…
スミソニアン航空宇宙博物館別館は、ワシントンD.C.中心部からかなり離れた、ダレス空港の近くにある。
東京で言うと、成田空港のあたりにあるような感じ。
国の所有施設なので、入城は無料。
すでに航空業界から姿を消して久しい、エールフランスのコンコルドも展示されていた。
90年代、よくケネディ空港で、ロンドンに向かうブリティッシュエアウエイズのコンコルドを、搭乗ゲートの窓越しに見ることがあったが、すぐ近くでその姿を見たのは初めて。
エノーラ・ゲイの常設展示については、やはり関係者の間で賛否両論による協議もあったようだが、アウシュビッツの収容所や広島のドーム同様、二度とこのような惨劇が繰り返されぬよう、人類の「負」のヘリテージとして、いつでもこうして見学可能にすることは、決して間違っていないと思う。
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ニューヨークからワシントンD.C.へは、制限時速65マイルのハイウエイを飛ばして往復10時間。
朝7:30に出立、夜11:30に帰宅という日帰り強行軍ではあったが、駆け足観光も楽しんだ。
ワシントンD.C.は、どこを歩いても花の香りがする。
ニューヨークのように人が多くなく、政府の重要な施設が多いわりには、とても開放的な雰囲気がある。