アタウアルパ・ユパンキ生誕100年記念メモワール
かねてから、当ウエッブサイトでも、ぜひ皆様にご紹介したかった一冊の本。
それが、昨年ブエノスアイレスのプエルトス・デ・パーロス社より、アタウアルパ・ユパンキ生誕100年を記念して出版された、ユパンキ本人の言葉による回想録、”Este Largo Camino-Memorias (この長き道 メモーリアス)”です。
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ユパンキのたいへんめずらしい写真の数々、そしてさらに1936年、彼が自身のキャリアとして最初に行ったという、貴重な音源6曲が収められたCDを特典としてもつ、304ページに及ぶ豪華な装丁によるこの本は、昨年10月ニューヨークにおいて、ヴィラ=ロボスの’コパカバーナ・ギター協奏曲’を私と共演してくれたアルゼンチンのピアニスト、ネリダ・サンチェスさんからのプレゼントです。
ポルテーニャ(ブエノスアイレスっ子)のネリダさんは、純然たるクラシックの奏者ですが、自分たちが生まれた大地に伝わるフォルクローレのスピリットを心から深く理解する、素晴らしいパンペアーナ(パンパ娘)でした。
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ユパンキ20代のスナップ
1964年、日本滞在時のスナップ
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私はかつて、アルゼンチンまで行ってユパンキにギターの手ほどきを受け、彼の音楽はもちろんのこと、彼のものの考え方や、その独自の詩想の世界に心酔し、そして世界中にいるユパンキ・フォローアーのひとりとして道を行くものですが、そこはあくまでもミュージシャン。
ユパンキ研究家やフォルクローレ博士ではないので、実際彼が、長いキャリアのなかで、どんな人たちとつきあいをもち、そしてどのような芸術活動をしてきたなどという話になると、細かいところまではよく知らないのが事実です。
この本を読み出してから、いまさらながらにユパンキの素晴らしさを身にしみて感じた思いですが、今日は、これまで私がまったく知らなかった、ユパンキの素晴らしい活動のひとつをご紹介したいと思います。
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ユパンキは70年代、パリにおいて、ウルグアイの名クラシック・ギタリストであるオスカル・カセレスと、私自身、いままで聴いたフラメンコのギタリストのなかでも、誰よりも素晴らしいと思うフレンチ・アンダルシアン、ペドロ・ソレールと親交がありました。
あるとき、フランスのある大学都市において、その土地にゆかりのある人物へのオマージュとして、この三人のギタリストが集まり、それぞれの音楽を演奏するコンサートが開かれました。
結果、ユパンキはそのときのパフォーマンスにたいそう満足したようで、仲の良いふたりの芸術家に、今後もトリオとしての活動の存続を提案。
‘トレス・ギターラス トレス・アミーゴス(ギター三台 友だち三人)’という名前で演奏活動を開始し、なんとそのトリオによる活動は、その後15年に渡って、フランス、ドイツ、オーストリア、ルクセンブルグ、スペイン、そしてベルギーなどの国々で続けられ、驚いたことにフランスだけでも、なんと60から70もの公演を行っていたというのです。
ユパンキのマニアの方ならご存知だったかもしれませんが、私はこの本を読むまで、こんな話はまったく知りませんでした。
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クラシック奏者のカセレスは、バッハ、ヴィラ=ロボス、アルベニス、グラナドス、そしてモレーノ・トローバといった巨匠たちのナンバーを演奏し、フラメンコのソレールは、ファンダンゴやティエントスをはじめとするアンダルシアの調べ、そしてユパンキはもちろん南米のフォルクローレを演奏したそうですが、ペドロ・ソレールを高く評価していたユパンキは、ソレールのセットの際、彼の傍らにマイクを立て、この素晴らしい才能をもったヤング・アンダルシアンの奏でるジプシーの調べにのせて、ガルシア・ロルカの詩の朗読も行ったようです。
ユパンキの記述によれば、この真のスーパー・ギタートリオはベルリンにおいて、簡単な録音を行ったということですが、ウーン、どこかに音源は残っていないものでしょうか....。
聴きたいーッ!!!
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このストーリーが書かれたチャプターは、そのものズバリ”ギター三台 友だち三人”。
ラストの部分に書かれた、このトリオについてのユパンキのパラーブラ(言葉)が実に素晴らしいので、ここでご紹介することにします。
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“私たちは、自分たちが大巨匠であるとか、はたまた大芸術家であるとか、あるいは偉業を成し遂げた凱旋者であるなどとは、これっぽっちも思わなかった。
私たちはただ、運命と、そして演奏する際に心臓に押し当てられることによって、そこからさまざまな情感や想い出が、実にさまざまな表情をもった音となって生まれ出てくる素晴らしい楽器のもとに、ひとつの場所によばれた三人の*オンブレにすぎなかった。
(*人間、男)
彼らとともに演奏するのは喜びだった。
彼らの演奏を聴くのは喜びだった。
私が思うに、彼らもきっと同じことを感じていたにちがいない。
私たちはお互いをとても敬愛しあい、願わくば、この南米大陸のエモーションが濃縮された格別に美しい楽器、ギターとともに、この友情が一生涯続けばいいと強く思った。
「そうなるともう、友だちではなく親類ですね。」
と、誰かに尋ねられたとき、私は冗談で、
「そう、私たちは親戚なんです。ギター方(かた)のね。ギター方の素敵な兄弟なんですよ。」
と、答えたが、実はこれは冗談ではなく、私にしてみれば本当のことだったのだ。
_アタウアルパ・ユパンキ(’Tres Guitarras, Tres Amigos’本文より/シロ・エル・アリエーロ訳)
♪♪♪
「友だちではなく親類ですね」と聞く人もなかなかですけれど、それに対して、父方、母方の親戚ではなく、自分たちはギター方の親戚だという、超一流ユーモア・センスをもって斬りかえしたユパンキ。
もう、言葉がでませんネ!
¡Eres maravillosisimo, Don Ata!