アルゼンチンのコルドバ州北部、ビジャ・デ・マリーア・デル・リオ・セーコに暮すギター製作家、グレゴリオ・カブラルさんが、1994年、私のために作ってくれたカスタムオーダーによるギター。
今年3月半ばに、ビッグ・オーヴァーホールに出していたこの楽器が、約3ヶ月に渡る大修理を終えて私のもとに戻ってきました。
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今回、この大手術を担当してくれたのが、ニューヨーク州ロングアイランドの郊外に暮す、私の良き友人であるリペアマン、リチャード”リッチ”・サヴェージさんです。
一見プロレスラー風の大男ですが、実はバッハをこよなく愛する芸術家。
カブラルさん製作によるこの楽器に対して、「なんて彼女(ギターは女の子です)は、深く美しい声をもっているんだろう。」と言いながら、最大のリスペクトをもってこの大仕事をしあげてくれました。
彼は、この写真を撮る前は本当にプロレスラーのようないでたちで作業をしていましたが、写真をウエッブサイトに載せるというと、「そりゃたいへんだ」と言って家の中に入り、服を着替えてきました。
このギターは、1994年の1月31日、奇しくもアタウアルパ・ユパンキと誕生日を同じくして生まれました。
シダートップに、南米産のノガル(胡桃)によってサイドとバックを支えたストラクチャーは、芯のある艶やかな音色が特色の、スペイン産クラシックギターにかなり近い楽器でしたが、どちらかというとそういったクラシカルな音色よりも、より土臭い南米フォルクローレ色の強い楽器を必要としていた当時の私は、翌1995年、同じデザインによる木ネジペグをヘッドにあしらったモデルを再特注しました。
92年から95年までの間の4年間に、私が購入したギターの数は実に4台を数えます。
そしてそのうちの3台までが、グレゴリオ・カブラルさん製作による特注カスタムでした。
そういうわけでこの94年モデルは、その後しばらくケースのなかで長い冬眠をしていました。
しかし今回、ビッグ・グリンゴ(”グリンゴ”は、”想い出のグリーングラス”の歌詞にその語源をもつと言われるおなじみのスパニッシュ・スラングで、アメリカ人を指します)、リッチさんの高い技術により、痛んでいたボディーとネック、そしてフィンガーボードのリシェイプを受け、アルゼンチン独特の深みを持った土臭さと、さらにクラシカルでまろやかなエレガントさが兼ね備わった、現在の私が、最も必要とする素晴らしい音色のギターとなって生まれ変わったのです。
今年はこれから、とても重要な公演がたて続けにあります。
アルゼンチンの大地の香りを知る木々のうえに、アメリカン・クラフツマンの魂がこめられたこの楽器は、これらのコンサートにおいて、私を最大限まで支える素晴らしい武器となるでしょう。
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“Many thanks, Rich !!!”