•この人に聞きたい•
ギタリスト/作曲家 大竹史朗のNY25年
(週間NY生活 2013年9月21号掲載記事)
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アルゼンチンの国民的フォルクローレギタリスト、ユパンキの精神性を反映する弾き手と評され、近年は作曲家としても活躍する。
ブロードウエー大舞台を目指して渡米、ダンサーとして仕事が入り始めた頃、ユパンキの指導を仰ぐ機会に恵まれて進むべき道が決まったという大竹さん。
ニューヨークの地を踏んで25年を迎えた8月の昼下がり、新たな抱負を聞いた。
(聞き手・小味かおる、写真も)
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★ユパンキの後継者と言われますね。
そういう意識はなくて、フォローワーの一人です。弾き方も歌唱法も何もかも違う。
これからはユパンキをさらに突き詰める10年だと考えています。いろいろなエッセンスがこの5年の間に備わったんです。
★どんなエッセンスですか。
ユパンキの音楽、特に詩想の世界は素晴らしいものがある。でも今、さらに翼を与えて輝かせるには、違うアプローチが必要になってくる。
そこで、バッハやブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスを取り入れて。
ユパンキもバッハも宇宙からのエネルギーやメッセージを聞いていた。ヴィラ=ロボスもそうです。
この三者が三本の絵の具の筆となって、僕がイメージする南米が描けたんです。
★具体的には。
ユパンキ生誕100年に、ヴィラ=ロボスのギター協奏曲という難曲中の難曲を1年かけて練習して演奏しました。続いて、カーネギーホールで2年続けて、自分の音楽を支えるバッハ、ユパンキ、ヴィラ=ロボス、自作と4大エッセンスを演奏したんです。
バッハのシャコンヌはマヤ文明が起源だという話を聞いたときは本当に感動しました。
研鑽してきたバッハを取り入れて、一昨年は日本で「ユパンキに捧げるバッハ」、去年はバッハのシャコンヌをマヤの土着のリズムを強調して日本のパーカッショニストと一緒にやりました。
★今後の活動は?
ここ数年、朝鮮の音楽に傾倒しているんです。朝鮮の葬列で歌う歌が、アメリカン・インディアンの歌とまったく同じで、自分がなぜ朝鮮の伝統音楽に惹かれていたか実証された。それで「ハンアの舞」という曲を作曲して、12月17日、東京が初演です。その前に10月18日に東京で演奏会、また日本の映画音楽を作曲する計画もあります。
★来年はアルゼンチン公演もありますね。
レオポルド・ルゴーネスという詩人の生誕140周年で、その関連です。
彼の出身地リオ・セコという町は、僕が武者修行したときに、当時の町長さんが宿と食事を提供してくれたり、これを聞けと勧めてくれたりして、僕を育ててくれたんです。
その彼がルゴーネスの詩に作曲してくれないかと言ってきて。今、詩を読んでいるんです。
★今後もニューヨーク拠点ですか。
こんなにエネルギーを感じる町は世界にないんです。いつも好機をくれる。弱肉強食的なところがあって、怖い町なんですね。でも心から愛して、いつでも一つのことをやるときに地面をまず叩くんです、「おい、頼むぜ」と。そうするとニューヨークは答えてくれる。
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(写真提供:週間NY生活 小味かおるさん)