‘Duerme, niño indio’ Una distinta cuna de Atahualpa Yupanqui 「おやすみ、インディオの坊や」南米先住民の運命を謳うユパンキの子守詩

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Una interpretación en vivo de ‘Duerme, niño indio,’ mi obra original para solo de guitarra inspirada por la fenómeno poema del gran argentino.

A live performance of ‘Sleep well, Indian boy,’ my original work for solo guitar inspired by the stunning poem written by the Argentine maestro.

ユパンキの傑作詩集「インディオの調べ」のなかに、「おやすみ、インディの坊や」とタイトルされた、曲が付けられていない子守歌風の詩がある。

やはり同詩集におさめられた、日本でもよく知られている、どちらかというと幻想的でドリーミーな内容の「眠れるインディオの子」とは全く異なる、南米先住民の悲哀と運命をきびしい視線でみつめたものだ。

僕は、4年ほど前、ガルシア・ロルカの文学にインスパイアされたギター曲の作曲を開始したが、その際、下準備として、ロルカの全作品集および、彼のエッセイやインタビューに至るまで、可能な限りの文献を原語のスペイン語で読みあさった。

結果(これは自分でも少々驚くことになったのだが)、ロルカの詩を原語で読めば読むほど、改めてユパンキという、南米出身の稀有なミュージシャンが、いかにこのスペインの大詩人に(詩作のうえで)大きな影響を受けていたかということを強烈に感じることになる。

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ユパンキの詩の世界には、少々言葉を悪く言うと、”ロルカ・パクリ”といえるようなフレーズがかなり多く存在する。
たとえば、”月をはじめとする自然界の”隣人”たちや、民族音楽のリズムを擬人化して話しかける手法、さらに、””による比喩表現や、”四つの色のポンチョ、四つの山の道”など、固有名詞の前に数をつけた幻想的表現などは、まさにロルカからの多大なる影響と言って間違いない。

それは、どちらの詩も原語で読まないとわからない

おやすみ、インディオの坊や」は、ユパンキのロルカ的フィーリングが全編にわたって溢れでているもの。
ユパンキの詩作には滅多に出てこない(ロルカの詩にはしょっちゅう出てくる)””や””という言葉が頻繁に顔をのぞかせる、まさにロルカの影響があからさまに出たような、とても珍しい作品と言えるだろう。

ロルカは、こういった手法を用いて(南米のユパンキにとってのインディオであった)彼の故郷のアンダルシアに共存していたジプシーたちを主題にした作品を多く書いた。

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この詩は、とても日本語訳が難しいが、以下、訳したものを記した。
僕のオリジナル・ギター曲とともに楽しんでいただければ嬉しい。
2017年4月の東京公演におけるライヴ

このソロは、どちらかというとあまり残酷で悲哀的な部分は追求せず、すやすやと眠る坊やの、まだ見ぬ明日を優しく見守るような調べとして作曲した。

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おやすみ、おやすみ、インディオの坊や
インディオの月といっしょに 夢を見ておくれ
坊やの 優しい瞳を休ませて
魍魎(もうりょう)や魔女から解き放たれて

川は 石たちのなかで眠っている
谷は 靄(もや)のなかで夢を見る
山のいただきでは 死が爪を研いでいる

いつか 暗い力によって育まれた
坊やの明日が 訪れる
それは 坊やの血のなかに
胸に、歌に、そして月に太陽を照らす

すでにハチミツと、愛と苦みに満ちた
正気を取り戻した時代が やってきている

やがて坊やは 何世紀にもわたる静寂を大地に吐きだす
そして 夢と歌と、月の血を流す

坊やは 死ぬことなく命を失う
靄の中の 谷のように

おやすみ、おやすみ、インディオの坊や
この世が 坊やのものであることを夢見ておくれ
風の中で 坊やの夢を叫んでおくれ
坊やの *ビクーニャたちの自由を

ああ、荒野に生まれた運命(さだめ)と哀しみ
ああ、坊やの銀の丘
ああ、坊やのインディオの歌
ああ、暗い血を持つがゆえの 祝福された罪
狩人たちが そのなかから現れる
そして彼らは 坊やに釘を打ち付けるだろう

おやすみ、おやすみ、インディオの坊や
インディオの月を 夢見ておくれ
月が 坊やを見守るだろう
魔女たちでうずめく月が

*(アンデス高山に生息する、リャマに似た動物)

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ユパンキの”ロルカ・パクリ”は、彼の詩人としての価値を下げるものでは決してない。
どんな芸術家にも、終生憧れ続けた師匠格が存在し、ロルカもまた、彼の前に、偉大なるスペインの詩人、ホセ・ベルガミンがいたことで、あのスタイルを完成させたことは言うまでもない。

みな、偉大なる先人のエッセンスを真似し、吸収し、さらにそこから自分のスタイルを築き上げてゆく。
最も大切なのはそこだろう。