ラ・ベンゴ・ア・デハール – サンティアゲーニョの誇り

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 XVII

現在私が、決して大袈裟ではなく全身全霊をこめてその解釈とインタープレテーションに励んでいるもの、それが、目下の私にとってのユパンキ芸術の真髄ともいえる「ラ・ベンゴ・ア・デハール」です。
写真は、1992年2月16日、アルゼンチン、コルドバ州の集落シンサカーテにおいて、同国解放の英雄のひとりであるファクンド・キロガの記念碑に、その命日をリスペクトするために集まったガウチョ連合の青年たちとともに撮影されたスナップ。
中央のジャケット、ジーンズ姿が私です。
私は小学校時代から乗馬に親しんでいましたので、乗馬で彼らにひけはとりません。
私たちはこの後ともに馬を駆り、そしてギターを弾いて歌いました。
ファクンド・キロガは、このシンサカーテにほど近い、バランカ・ヤコ(スペイン語と先住民のケチュア語の混合語で”水の峡谷”の意)に没しました。
バランカ・ヤコは、北部コルドバと南部サンティアゴのほぼ国境に位置し、かつてここには南米最後の副王領リオ・デ・ラ・プラータへと続くロイヤルロードがあったそうです。
「ラ・ベンゴ・ア・デハール」は、かの地サンティアゴ地方の民族魂がうたわれた、私が、いまの私の年齢に到達するまで、ずっと長い間その研鑽をおあずけにしてきたナンバーです。


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ラ・ベンゴ・ア・デハール (アタウアルパ・ユパンキ)
*ビダーラのしらべが 俺の胸を焦がす
俺はひとり *ボンボもカーハももたず 山道をさすらう
人の世とは 砂地続きのはるかなる道 
はるか山のいただきにのぼる まんまるいお月さん
もしあんたを この手にとることができたなら
さぞ すてきなカーハになることだろう
ああ お月さん 俺をみまもっておくれ
俺はこうして あんたをカーハにしながら
サンティアゴの集落を渡り歩く
あんたが山の奥へと消えてしまい
どこかほかへと行ってしまったあとも
   カーハを高くかかげ 声たからかに里を想ってひとふし歌う
   これが俺のできることすべて
   俺のただひとつの証だよ
   だから俺はここに来た
   
   ビダーラが歌えなきゃ *サンティアゲーニョとはいえないね
   だから俺はここに来た
   だから俺は歌いに来た
   ああ 俺のいとしいサンティアゴよ!
   これが俺のただひとつの証
   だから俺はここに来た
ビダーラのしらべが 俺の胸を焦がす
俺はひとり ボンボもカーハももたず 山道をさすらう
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* ビダーラ – スペインを起源にもつ三拍子のゆっくりとした舞曲。
ギターの特殊奏法によって太鼓の音を模倣する、アルゼンチンフォルクローレの醍醐味のひとつ
* ボンボ – 先住民の大太鼓 カーハ – 同じく先住民の、シンバルを持たない大きめのタンバリンのような小太鼓
* サンティアゲーニョ – サンティアゴ人
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1990年代のはじめ、私はニューヨークのレストランでウエイターのアルバイトなどしながら、休みをもらうとアルゼンチン、サンティアゴ地方に渡り、小さな集落において行われるフォルクローレの音楽祭などに参加しながら武者修行をしていました。
私をユパンキのもとへと導いてくれた故エドワルド・マルティネス・グワジャーネスのおかげで、私はユパンキゆかりのセロコロラドや、近隣の集落に何日も居候をさせてもらっていましたが、いまでも私を根底から支えてくれているのが、その当時の経験と、そしてすばらしいサンティアゴ地方の人々の心の優しさです。
フォルクローレを演奏する際、必ずこのときの光景や人々の顔を思い起こす、私にとっての最高峰的作品「ラ・ベンゴ・ア・デハール。」
初演は2011年、アルゼンチン風バッハ第8番”カンタータ”の一部として披露する予定です。
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二枚目の写真は、私が最後にセロコロラドを訪れた1994年、土地の人が、お守りとして作ってくれたオブジェです。
とても重いものですが、私はこれを大切にニューヨークまで持ち帰りました。
この二年後の1996年、私はアルゼンチン最大の音楽祭「コスキン」に招聘され、何万人にもおよぶ観衆の前でユパンキを演奏し、大成功をおさめました
それからもこのお守りは、長い間ずっとと私を守ってくれているようです。
時代は変わり、いまではセロコロラドとインターネットでコミュニケーションできるようになりました。
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ユパンキの詩の世界は深く、そしてたとえようもなく素晴らしいものです。
しかし、たとえば”東海の小島の磯の白砂に 我泣きぬれて 蟹とたはむる”を他の国の言葉に訳してそのなんともいえぬ孤愁感を伝えるのがむずかしいように、スペイン語による原語以外の言葉に訳すのは決して簡単な作業ではありません。
私の訳は決してベストなものとは思いませんが、時間があるときにこうして訳したものを、ホームページ上ひとつのカテゴリーとして楽しんでいただけるようにしています。