サウダーデな夜に...悲しいわだち

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 V

2005年ペルー公演

10月22日の夜に、ファド、シャンソン歌手のはらだじゅんさんと共演するライヴ。
私はこのところコンサートにおいて、必ずと言っていいほどユパンキの’栗毛の馬’をオープニング・ナンバーとして演奏しています。
フォルクローレ・ギターの醍醐味ともいえる、クラシカルなフィンガーピッキングスタイルとダウン・トゥー・アースなリズム・ストロークのミックスによるこの魅惑的なナンバーは、私にとってまさに人生を決定づけたといってもいい記念碑的な作品ですが、今回のライヴでは、なんとはらださんがぜひともこの曲のインタープレテーションに挑戦したいとおっしゃいます。
そこで私は彼女の熱意をリスペクトして、この曲に関しては伴奏のみにまわり、そのかわり、やはり私が心から愛してやまない、深いメッセージをもつナンバーをオープニング・ナンバーとして選びました。
それが、ユパンキ初期の傑作曲のひとつ、’悲しいわだち’です。

2005年ペルー公演

写真は、2005年11月に、ペルーの首都リマで行った’アタウアルパ・ユパンキへのオマージュ公演’において、’悲しいわだち’、’ギジェルマおばさんに捧げる歌’、’トゥクマンの郷愁’、’眠れるインディオの子’、’兄弟たち’、’牛車にゆられて’、’トゥクマンの月’、そして’牛追い’などの名曲を、つめかけた1200人のお客様を前にたてつづけに演奏する私。
‘悲しいわだち’の公的演奏は、このとき以来となります。
フォルクローレの故国でのこのリサイタルは、アンコールだけで30分間をこえ、トータルで2時間40分におよぶ、聴衆と演奏者が一体となった、文字通り私のキャリアの上での最高のコンサートとなりました。
そして今年の11月、私は二年ぶりにペルーを訪れ、今度はアンデスのはるか上空、マチュピチュにおいて演奏を行う予定です。

悲しいわだち(Huella Triste)

“あんたの悲しみってやつを語ってくれないか”
俺はしばしばこうたずねられる
*しかし俺は口をとざす
それが俺の力のみなもとなのだから
俺は世界中の道を歩き続ける
道は石であふれ 空気は夢でいっぱいになる
人生とは 地面に横たわる一本の縄
ひとつの端に喜びがあり
もうひとつの端に悲しみがある
俺の心も このように歩いてゆく
夢と苦しみに満たされながら
そして求めるものに出会えずに 霧のなかに消えてゆく
嵐の夜に 南十字星はみえない
わだちをたどるためには
心のなかを見つめなければならない
俺は道に歩きつかれたとき じっと心の中をみつめる
思い出の焚き木に 薪(まき)をくべる者のように

(* ’悲しみ’意味する’Pena’は女性型名詞。ここの部分を直訳すると、”もし彼女のなかにおれの力があるとするなら俺にそれを語らせるな -黙らせてくれ- ”となる独特の表現を実際ユパンキは使っています。)

2005年ペルー公演

2005年ペルー公演