‘El Guitarrista’ y ‘Fuga’

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 XI

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かつて ともに生まれた 道と人は
いつの日か ふたつにわかれていた
それが いつ どこでなのかは 誰にもわからない...
いつの日か 道と人は ふたたび出会うだろう 
道は さらに 広さをまして
人は さらに 深さをまして
それが いつ どこでなのかは 誰にもわからない...


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これは、1947年、ウルグアイの首都モンテビデオで出版された、アタウアルパ・ユパンキの詩と随想からなる著書、’インディオのしらべ(写真は、私が所持している、ブエノスアイレスのNORDUSから1954年に出版された第二版)’のなかにおさめられた、’エル・ギタリスタ(ギター弾き)’からの抜粋です。
この作品は、アルゼンチンの片田舎に生まれたひとりの少年が、ある日ギターと運命的な出会いをし、さまざまな経験をしながら、ギタリストとしての道を歩んでゆく様が、物語風に綴られているものですが、ご紹介した詩の部分は、この4ページにわたる美しいストーリーの冒頭と最後を飾る、全体を象徴するものとなっています。
私が現在リハーサルを続けているのが、こういった、音楽のついていないユパンキの素晴らしい文学にバッハの音楽をのせ、それをギターと女声の朗読で行うパフォーマンスです。

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ユパンキの優れた詩の世界に、バッハの音楽がフィットすることは以前ふれました。
そんななかで、ともに生まれたふたつのものが、いつかわかれわかれとなって歩き出し、長い道のりのなかで広さをまし、そして深みをましながら最終的に出会うことになるという、崇高な精神哲学を原点にもつこの素晴らしい作品。
それに対して私が選曲したのが、こういった内容を音楽的に表現するのにもっともふさわしく、また、数あるバッハのギター曲のなかでも、”シャコンヌ同様、最大の演奏効果をもつナンバーのひとつといっていい、無伴奏ヴァイオリンソナタ第一番ト短調BWV1001の’フーガ’です。
現在、楽譜のうえに細かくひとつひとつスペイン語のフレーズをのせて、タイミングをあわせる作業をしていますが、オリジナルキーを一音上げ、弾きやすいイ短調に名編曲が施されたギターで弾くと6分ほどかかるこの傑作曲に、全4ページにわたるユパンキの文学が、とくに努力をしなくてもすんなりとフィットしてしまうことは、たいへん不思議に感じるものです。

私は、毎日かならずバッハの音楽をギターで弾きます。
それは、ヴァイオリンソナタやパルティータの’サラバンド’や’アルマンド’であったり、私が彼のギター曲のなかでももっとも好きな、リュート組曲第一番BWV996の’プレリュード’や、かつてユパンキのまえで演奏し、とても喜んでもらえた、同組曲の’ブーレ’であったりといろいろですが、とにかくバッハを練習しない日はありません。
私が弾く、ユパンキをはじめとしたあらゆるナンバーは、すべて、日々のバッハズ・フィンガリング・プラクティスによって支えられていると言っても過言ではないでしょう。
ユパンキはバッハをなによりも愛し、ヴィラ=ロボスは、”バッハは世界を結ぶもの”といって深く傾倒していました。
ユパンキ、ヴィラ=ロボス、そしてバッハ、さらにそこから生まれる私の音楽が、これからの私の、コンサートにおいても録音においても、その中核をしめるものになると思っています。

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