北部コルドバの情熱 ’ラ・サンティアゲーニャ’

広島世界平和記念聖堂ライヴ音源 I

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これまでに、数多くの中南米の国々において、実に数え切れないほどの素晴らしい体験をしてきた私ですが、なかでももっともパワフルな血となり、そして糧となっていまも私を内側から支え続けているものが、アルゼンチンのコルドバ州北部の大地と、そこに暮らす人々との出会いと言っていいでしょう。
今日は、北部コルドバの力強く美しい民衆の姿を、かの地を代表するリズム、’ガト’を用いて作曲した私のオリジナル・ギターソロ、’ラ・サンティアゲーニャ’を、去る4月、やはり忘れられない思い出となった、広島世界平和記念聖堂リサイタルにおけるライヴ・レコーディング・ヴァージョンでお楽しみいただきたいと思います。


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‘ラ・サンティアゲーニャ’は、’サンティアゴ地方の娘、民、人々’というスペイン語。
サンティアゴ地方は、その正式名を’サンティアゴ・デル・エステーロ’といい、地図でいうと、ちょうどアルゼンチンの真ん中あたりに広がるコルドバ州の北に隣接していますが、ボーダーをはさんだすぐ南側の北部コルドバとは、気質や文化の面で共通点が多く、このふたつの地方は、血を分けた兄弟分ともいえる間柄です。
コルドバで行われる音楽祭やフェスティヴァルには、このサンティアゴから多くの人々がつめかけ、逆にそれがサンティアゴであるときには、今度はコルドバ人たちが大挙して押し寄せます。
互いに共有する文化ともいえる、’チャカレラ’、’ガト’、そして’サンバ’や’ビダーラ’のリズムにのって、両州入り乱れて夜を徹して踊る光景には、もうコルドバもサンティアゴもありません。
この力強い魅惑的な光景から霊感を得て作曲したのが、この’ラ・サンティアゲーニャ’なのです。
ギターのフレットボードを、低音部から高音部にかけて縦横無尽にめまぐるしくかけまわる左手のテクニックと、激しいラスゲアード(フラメンコ風のかき鳴らし)とソリッドなフィンガーピッキングによる右手の指さばきをみせるこのナンバーは、とくにステージにおける、ヴィジュアル的要素も含む演奏効果を狙って作曲したものなので、これまでCDには録音していませんでした。
今回のこの録音は、なんの人工的エフェクトも施していない、私が弾いた音をただ高性能マイクで拾い、それがそのまま世界平和記念聖堂の会堂内にこだました音です。
祭壇のてっぺんでの演奏が気持ちよかったせいか、私もかなりノッて弾いています。
HOPE U NJOY !!!

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さて、もうひとつボーナストラックは、このコンサートのために東京からかけつけてくださった私のクラシックギターの恩師、鈴木巌先生との共演でアンコール演奏した、おなじみ’愛のロマンス~禁じられた遊びのテーマ’です。
このナンバー、本番前にたった一度だけリハーサルしただけでしたが、師弟間の呼吸はピッタリ。
私の、いかにもスペインらしい音のするイグナシオ・ローサスと、まさに先生の分身ともいえるドイツの銘器、ヘルマン・ハウザーの音色がきれいに融けあいました。
定番の、アルペジオで弾かれるメインのパートを私が弾き、装飾のハーモニーおよび、中間部の、映画でも使われた、ロベール・ド・ビゼー作曲による美しいソロを鈴木先生が演奏してくださっています。
(先生は、しばらくこのソロのパートをステージで弾いていらっしゃらなかったようでしたが、私が本番直前にお願いしたにもかかわらず、”エッ、あれもやるの?!練習しなきゃ。”などとおっしゃりながらも、その約2時間後、押さえの利いた香り高い完璧な演奏を披露してくださいました。このあたりが、いわゆる鈴木巌先生のすごいところなのです。)
(実は私のほうも、このナンバーをステージで演奏するというのは、1500回をゆうに超えるこれまでの公演歴のなかでも、この日がたったの二度めでした。)
それでは、天国と地上のふたりの恩人に見守られての私のパフォーマンス、どうぞお楽しみください。

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