アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 III
海、山、風、川、森、平原、木々、花々、そして動物たち。
自然界のなかでともに生きるものたちとの心のふれあいを美しい詩にたくして謳いあげたアタウアルパ・ユパンキ。
以前、さすらいの旅人と、それを見守る木々との素晴らしい心の交わりをテーマにした’郷愁の老木’についてふれました。
今回は、前述の’ギターラ’と同じく私の愛読書であり、ユパンキ名作詩集である’ひとりぼっちの石 (ピエドラ・ソラ)’のなかから、路傍にひっそりと佇む、まるで忘れ去られてしまったような石との心のふれあいを謳った、同タイトルによる作品をご紹介したいと思います。
‘ひとりぼっちの石’は、詩集のトップにある、’デディカトーラ’とよばれるユパンキ自身による献呈文のあと、この名作詩集の冒頭を飾る作品としておさめられています。
詩集 ‘ひとりぼっちの石 ‘より
デディカトーラ (献呈文)
俺の大地よ!
お前の抱く山々の
その道の上で
俺の心は これらの言葉に出会った
その 大いなる
その 決して言語におきかえることのできないものが
俺のなかに宿った
まるで お前がもつ
静けさにみちた 宇宙のような力に
奥深く守られた 音楽の調べのように
- アタウアルパ・ユパンキ
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スペイン王妃との出会い 組曲’マリア・ルイサの城’
ギターのサウンドを楽しんでいただけるオーディオ・ページ が新しくできました。
今日は、私のオリジナルギター組曲、’マリア・ルイサの城’をご紹介します。
この組曲は、私がこれまでに体験したもっとも不思議なできごとをもとにイメージを膨らませて音楽化し、さらに、バロック、スパニッシュ、フォークロックと、私がもつアコースティック・ギターのテクニックをすべて駆使したアレンジを加えて完成させた、文字通り’ギター音絵巻’とよべるナンバーです。
(美しいイラストは、このナンバーを収録したCDのジャケット・デザインを担当してくださったイラストレーター、芙似原由吏(ふじわらゆうり) さんによるものです。
実際私が出会った王妃のイメージは、むしろこの由吏さん最初の作品のほうが近く、とても気に入っていたのですが、こちらでデザインを決定する段階で、「まるでカレン・カーペンターのようだ(?!)」という、いかにもアメリカ人らしい意見があったため、結局彼女がわざわざもう一度描きなおしてくださったものがアルバムジャケットとしてこのCDを飾ることになりました。
私はいまでも由吏さんに対して、このときのことを感謝しています。)
それではご一緒に、マリア・ルイサのお城探検へと参りましょう!
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サルタの誇り高きガウチョと心優しき詩人
音楽家ならば、一生涯忘れられないコンサートというものが誰にでも必ずあることでしょう。
私にとってのそれは、3年前、アルゼンチン北部に位置する美しい町、’フォルクローレのゆりかご’と呼ばれるサルタ市 で行った公演です。
私はこの公演が決まったとき、以前からレコードで親しんでいた、サルタ出身の(ロス・チャルチャレーロスや、ロス・トゥクトゥクなどと双璧をなす北部-ノルテーニャ-スタイルを代表する)フォルクローレ・グループ、‘ロス・カントーレス・デル・アルバ’ の代表曲のひとつであるサルタ賛歌、’Mi Traje de Gaucho(俺のガウチョ服)’をぜひ演奏しようと思いました。
そこで現地の主催者に連絡したところ、なんと、やはりサルタ出身で、このナンバーの作詞者である、ペドロ・セルバンド・フレイタ さんご自身から楽譜が送られてきてまずビックリしたのですが、これに加えてさらに当日は、これまたサルタ出身の伝説的フォルクローレ・グループ、’ラス・ボセス・デル・オラン ‘の創設者であるフォルクロリスタ、マルティン’ピティン’・サラサールさんが全面的にサポートしてくれるとのニュースに、私はすっかり感激してしまったのです。
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アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 II
私はこれまでに、アルゼンチンの多くの地方を旅して見聞を広め、そしてできるだけたくさんの美しく力強いフォルクローレの調べを体のなかに、そして血の中にしみこませようと努力してきましたが、結果それは、3年前に行った、’フォルクローレのゆりかご’と呼ばれるサルタにおける公演において、私のキャリアの第一段階としての頂点を招きむかえてくれたかのように思えました。
そんな私が、いまだ訪れたことのない美しい土地。
それが、ビダーラ(ビダリータ)、チャジータといった独特の調べと豊かな自然、そして広大なブドウ畑をその胸にいだく、ワインの名産地として知られる’ラ・リオーハ’地方です。
(写真は、私のサルタ公演を報じた、’エル・トリブーノ紙’。
‘日本人ギタリストとユパンキ作品’という見出しで、素晴らしいユパンキの写真が使われています。
ユパンキは生前、母国のアルゼンチンや隣国のウルグアイでは、’Don Ata(アタ親分)’と、親しみをこめて呼ばれていました。)
そのアタ親分が、ラ・リオーハによせた素晴らしい詩をご紹介します。
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アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界
前述の’De Tanto Dir y Venir’同様、私を深く魅了するのが、やはりユパンキ晩年の録音による傑作曲、’Quisiera Tener Un Monte(山がほしい)’です。
Quisiera Tener Un Monte(山がほしい)
山がひとつほしい とある里に
夕べに 美しい木の若枝にかくされた巣を守る
鳥たちの歌声を聴くために
山がひとつほしい
静けさが歌を紡ぐ 清らかな時間に
ギターを連れて歩くために
山の奥深く 奥深くへと 俺は歩いてゆく
そして とある木の枝のうえに ギターを眠らせる
するとやがて つがいの鳥たちが そこに巣を作るだろう
俺の影が 野にひとり
孤独とともに 消えてゆくあいだに
ユパンキは生前、
“私は以前、自分の前世は風だと思っていました。しかし、実は最近、風ではなくて木ではなかったのかと思っています。”
ということを言ったのですが、それを聞いた人が、
“なんの木だったのでしょう?”
と尋ねたところ、ユパンキは真顔で、
“いま研究中です。”
と答えたそうです。
彼はこの詩を書いた時点で、おそらく人としてではなく、木としてふたたびまた生まれ変わることを感じていたのではないでしょうか。
私も最近、この人はほんとうに木だったのではないかと思っています。
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アンダルシアのレモンと、イタリアの濃厚なハチミツに、アタウアルパ・ユパンキの魂が溶け合う、静寂のグロリエータ(四阿)「カンテホンド・イベロアメリカーノ」の音楽世界