La Guitarra

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 XIV

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ラ・ギターラ(アタウアルパ・ユパンキ)

蜜と悲しみ
そして涙の泡でその姿をなし
満月のくちづけと
夜明けにみなぎる血とともに
オーロラの輝きと 澄んだ川のさざめきによって生を受けた
孤独の*マドゥーラ
満天の星空の下
ギターの奥底から いくたびもいくたびも音楽が流れ出す
そのからだは たんなるマドゥーラではなく
それは 燃えあがる密林
木々の枝の悲しみが歌を生み
ふたつの手が 翼となって
満天の星空の下
ギターの奥底から いくたびもいくたびも
はるか 音楽が舞い上がる
祖国の自由のための苦い戦い
騎馬の群れ 槍 駿馬
やがて 種蒔きの時が訪れる
清らかな命がそこに生まれ
大地は香り 声高らかに歌う
朝に花が咲き乱れ
ギターの密林を 歌で満たす
吟遊詩人たちは奏でる  
歓びをあたえる甘味さを
かなうことのないやるせなさを
それは 長い夜をなぐさめる**アルキテクト
満天の星空の下
深い傷が 歌をつくる
ギターはこれらのことを知っている
それゆえギターは悲しむのだ

*  木材
** 建築家


♪♪♪

アルゼンチン出身の朗読の名手、アデラ・ペラルタさんとのコンビで行っている、バッハのギター音楽とユパンキの詩によるクロスオーヴァーの世界。
‘ティエンポ・デル・オンブレ’、’私を旅立たせないでおくれ 老いたアルガローボの木よ’、そして’エル・ギタリスタ’(本ウエッブサイト内の’素晴らしき詩想の世界’カテゴリーをご参照ください)と続いた今回の第四弾が、1960年にアルゼンチンのシグロ・べインテ社から出版された傑作詩集(トップ写真)の標題詩、’ラ・ギターラ’です。
この’ラ・オブラ・エクストラオルディナリア(きわめて優れた作品’)に対して私が選んだのが、バッハの’無伴奏チェロ組曲第一番BWV1007’のオープニング・ナンバーである’プレリュード’。
かの鈴木巌先生によって、’おつむテンテン’と命名(主になるメロディーが確かにそのように聴こえる)を受けたこの作品は、輝かしい生命力に漲る、明るく力強いトーンが全編を支配する短いナンバーですが、ギターに編曲されることにより、さらに最大限までその特性が活かされました。

♪♪♪

上記写真の楽譜は、私が自分で編曲したものです。
多くのアレンジ同様、ニ長調であることは変わりませんが、通常一音下げてDの音にチューニングするギターの第6弦を、そのままレギュラーのEの音で演奏します。
こうすることによって、低音の重みがなくなるかわりに中音部と高音部の輝かしさが増し、左手がさらに自由になって弾きやすくなることはもちろん、特に第20小節めから22小節めにわたって展開する、前半部の区切りといえる魅惑的なG#-Gナチュラルのコードのフィンガリングはとても自然で、オリジナルであるチェロのボウイングに近い感じが得られるのです。
あたかも澄み切った川の流れのように展開する美しい曲調は、ユパンキが最愛の分身であるギターによせた傑作詩にピッタリだと思っています。