”アルゼンチン風バッハ” 香川京子さんとともに

新作カンタータへの序曲

去る11月16日、東京麻布の駐日アルゼンチン大使公邸において香川京子さんとの共演によって行ったスペシャルコンサートが、無事成功裏に終了しました。


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私たちは、コンサートの三日前にも入念なリハーサルを行っていました。
しかし香川さんはこの日、大使公邸に到着するとすぐに、ご自分で書き直されたユパンキの詩を開くと、細かい再チェックをはじめられました。
黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男をはじめとした、日本が世界に誇る名匠の作品に次々と主演され、輝かしいキャリアによる大女優の名をほしいままにする香川さんですが、私がこの数日そばで見たのは、そういった華やかな部分とはあきらかに一線を画す、質素で、つねにきびしいまでにベストを追求しようとする真の映画人の至高の姿でした。

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私も真剣な表情です。

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この香川さんの表情が、すべてを語っているでしょう。

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そして本番。
香川さんは、映画「赤ひげ」ご出演のあと、当時読売新聞NY支局長でいらした旦那様とともにニューヨークに渡られ、偶然にも現在私が暮らすビルディングのほぼ向かいのマンションにお住まいでした。
これもご縁だったのでしょうか。
そんなお話もまじえながら、香川さんは、私がイメージしたとおりの詩を朗読を披露してくださいました。
日本の映画女優によって、ユパンキの詩が公式の場で読まれたのはおそらくはじめてでしょう。
このあとアルゼンチンの、ロベルト”コージャ”・チャベーロさん(ユパンキのご長男)にコンサートのことを連絡すると、彼はとても喜んでくれました。
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私はこのとき、ギターを中心として他のどんな楽器でも加えられるアレンジをもつ合唱曲の構想を抱いていました。
そしてこのパフォーマンスのあと、香川さんの朗読に、さらに三部による子供たちのコーラスを導入するアイディアを思いつき、バッハの最高傑作オルガン曲のひとつである「幻想曲とフーガト短調」のフーガ部分の主旋律を主題とした新解釈にるカンタータの作曲を開始しました。

(上左)「フーガBWV542」の楽譜。
まさに天空の調べともいえる至上の音の泉を、私は今回、はじめて五線上に記された音符として研究をスタート。
冒頭の部分をそのままイントロダクションとして使用します。
ト短調は、ギターで弾くのにあまり適さない調子なので、まず一音あげてイ短調、そして二音さげてホ短調というギターで弾きやすいキーにアレンジしてみましたが、やはり原調のもつ響きにかないません。結局オリジナルキーのままギターで押し切ることにしました。
(上右、下)ギターソロにアレンジした「フーガト短調。」
三声めの応唱が現れる手前までは、ほぼオルガンと同じ音符を奏でます。
このあと、子供たちの合唱による、ユパンキの「大地は大いなる歌」が、フーガの主旋律と、そこからインスパイアーされた私の創作メロディーによって展開する内容になります。

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日本映画界の至宝ともいえる香川京子さんは、実の姿も本当に素敵な方でした。
今回、私の”アルゼンチン風バッハ”に深いご理解とご賛同をいただき、快くゲスト出演を引き受けてくださったことに、心からの感謝を申し上げます。