Lorca’s Gacela del Mercado Matutino 舞台女優によるパフォーマンスを伴う、ガルシア・ロルカの激情の恋の詩(うた)

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Bach Guitar Improvisations VII for an actress and a guitar player
‘Gacela del mercado matutino (Gazelle of the morning market)’

1. Moderato (Allemande BWV. 1011)
2. Adagio
3. Allegro (Zambra)

舞台女優とギタープレイヤーのための、バッハ・インプロヴィゼーション第7番
「朝市のガセーラ(エルヴィーラの朝市のきみへ)」

1 モデラート(アルマンド BWV.1011)
2 アダージョ
3 アレグロ (サンブラ)

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現在進められている、オーストラリアの若い舞台女優によるパフォーマンスとともに上演予定の、新しい二曲のバッハ・インプロヴィゼーションのひとつ。

そもそもこの女性とは、旧約聖書(哀歌)にモティーフを得た「囚われのシオンのおとめ」という作品で共演を予定していたが、このテスト録音をバックに演技する彼女のビデオを観て、僕はすっかり惚れ込んでしまった。

身長168センチのスラリとした体つき。
父親がイギリス人で、母親がユダヤ系オーストラリア人の、黒髪、どこか東洋的な雰囲気を湛えた、ちょっと酒井和歌子風のチャーミングな美貌は、僕が長いこと決定的なアイディアが出ずに抱え込んでいた、あるロルカ・インスピレーションのギター曲にまさに最適だったため、急遽もう一曲リクエストを送った次第。

168センチという身長は、高いヒールを履いてステージに立った時、僕とちょうど良いバランスになる。
まさに理想的。

このビデオは、「朝市のガセーラ」という、僕がとても好きな、ロルカの恋の詩。
アンダルシア南部の、エルヴィーラという町の城門で開かれる朝市で見かける、名前も知らない魅惑的な女性に対する激情と倒錯の想いが詠われる。

僕はこの詩を高校一年の時に読んで、この一歩間違えると陳腐なポルノ小説のようになってしまう(男なら誰でも心奪われた女性に対して感じる)狂おしい深層心理を、こんなにも文学的に、切ない哀感を持って詩的に表現できる人間がこの世にいたのかと、ほんとうに感激したものだ。

数あるバッハの器楽曲の中でも、僕が最も好きなもののひとつ「無伴奏チェロ組曲第5番アルマンド」を主題に、静かに神秘的に美しい女性の姿をサウンド表現したのち、ラストは、アンダルシアの伝統リズムである、アラブ起源のサンブラ(アレグロ)に展開、かなり激しいクライマックスを迎える。

現段階では、まだ女優の姿をご覧に入れることはできないが、当ビデオは、オーストラリアに送った英語字幕のテスト版に日本語字幕を代わりにつけ、皆さまに公開するもの。

このナンバーでは、ロルカのテキストは、朗読という形態ではなく、完全な暗記によるセリフとして、語り、嘆き、呻き、そして舞うという、あらゆる演劇的要素とともにプレイされる。
間違いなく誰の亜流でもない、新しいギター音楽になるはずだ。

楽しんでいただければ嬉しい。

なお、タイトルにある「ガセーラ」というのは、アラブ起源の、恋愛をテーマにした韻を踏む叙情詩の形式「ガザール」がスペイン語に転じたもので、ロルカは、この形式を用いていくつかの傑作詩を残している。