¡Adios Paco!

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現存するギタープレイヤーのなかで、私がつねに最も素晴らしいと感じていたスペインのパコ・デ・ルシアが、つい数日前、惜しくも休暇先のメキシコで(ハートアタック…)この世を去ってしまいました。
享年66(歳)でした。
私は少年時、パコがクリエイトした”アルモライマ”というナンバーを聴き、言いようの無い感動に包まれたことを、今でも昨日のことのようにおぼえています。


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”アルモライマ”は、パコがフラメンコの主要リズムであるブレリーアスに、アラブの伝統楽器ウードを導入して、エル•アルティスタ•アンダルース(アンダルシア出身のアーティスト)である自身のアイデンティティーの探求を試みた傑作ナンバー。
私はもし自分が将来、パフォーミングアーツの世界に関与して生きることができるとしたら(フラメンコをマネしてやるとかそういうことでは決してなく)、ぜひこのような手段と発想で自分自身を表現してみたいと子どもながらに思ったものでした。

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そして長い年月が経ち、私は今回、アルゼンチンから委託を受けて作曲した、国民詩人レオポルド•ルゴーネスに献呈する組曲「神々の炎」において、かつてルゴーネスの祖先が暮らしたスペインの荒涼とした風景が、南米の湿度を帯びたロマンンティックな光景にトランスフォームする様を音楽的に表現するアイディアを思いつき、初めてパコの音楽にある”エル・ドゥエンデ(’暗がりに巣食う化け物、妖怪’を意味するスペイン語で、フラメンコの目に見えない真空的な感動を伝える言葉)”の導入、そして南米音楽への融合を試行。
それは、長きにわたって真摯に南米音楽に取り組んで来た私にとって、たいへん自然で、まるで泉がわくかのように、ギターのなかからナチュラルにサウンドが生まれてきた瞬間でした。

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パコの死は、「神々の炎」がちょうど完成した日に届いた訃報でした。

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残念ながら、パコ・デ・ルシアという人に個人的に会うことはできませんでしたが、かつてスペインを演奏旅行した際、やはり素晴らしいギタープレイヤーであり、パコの実兄であったラモン・デ・アルへシーラスさん(数年前に他界)と知り合うことができました。
ラモンさんは、どうやらそのとき、出演した音楽祭のギャラが支払われたとか支払われないとかの問題でもめていたらしく、(私とははじめてしゃべるのに)開口一番、「いやーギャラがまだもらえてなくてねー、まったくいやになるねー。」といきなりボヤいたのに驚かされました。

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パコのような華やかなプレイは一切行わず、伝統的なフラメンコの伴奏の名手として陰で弟をしっかりと支えたこの優れたプレイヤーは、本当に愛すべきヒターノ(ジプシー)のオッサンといった印象でしたが、私が「あなたは川の流れのようにギターを弾くから好きだ」と言うと、笑いながら「グラーシアス」と喜んでくれました。
後日、マドリードのラジオ番組に生出演した際、私はコメンテーターに「ちょっと(リスナーに)サルダール(挨拶)していいですか?」と聞いてから、「ラモン、きいてる?」とマイクに呼びかけると、ラモンさんはあとで電話で、「きいてたぞー。」と言ってくれました。

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スケジュールの都合で、私のマドリード公演には来られませんでしたが、私にとってのスペインの素晴らしい思い出のひとつが、このラモン・デ・アルへシーラスさんとの出会いでした。
パコがこの世を去った日、きっとラモンさんは天国の入り口でギターを持って、「さあ。いっちょう派手にやろうぜ!」と最愛の弟がやってくるのを待っていたことでしょう。

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大成功をおさめたアルゼンチン、コルドバ州政府招聘による同国ツアーは、私にとって単に公演を成功させただけではありません。
それは、私の音楽のルーツが単にアルゼンチンにあるということだけではなく、私自身の存在そのものが南米であり、そしてアルゼンチンであることを本国の人々の前で実証し、さらに今後、ニューヨークに暮らす日本人アーティストとして、自分自身にしかできない独自の芸術を開拓してゆくうえでの、ゆるぎない大いなるコンフィアンサ(信頼)を得たと言っても過言ではない、私にとって真に意義のある旅だったのです。

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最新曲「神々の炎」は、そんななかから生まれた、私自身の”アルモライマ”。
渡米25年の節目を記念する4月18日の銀座ヤマハ公演において、私はこの、これからの私にとってまさにスタートラインとなる最新ナンバーを、ユパンキ同様、少年時の私を強くインスパイアーした不世出のプレイヤー、パコ・デ・ルシアへの心からの追悼の意を込めてプレイする所存です。

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そもそも、自分でやる分野ではないと子どものうちから思っていましたので、フラメンコの道に進むことはありませんでした。が、私自身、いまも世界で最も素晴らしい民俗音楽はフラメンコだと思っています。
私の愛用のギターのひとつには、カルロス・サウラ監督による映画、”カルメン”で世界的にその名を知らしめた史上最大のバイラオール(フラメンコの男性舞踊手)、故アントニオ・ガデスによる、「シローへ、同志より親愛をこめて」とのメッセージが書きこまれています。
真の芸術家と呼べる人々が、こうして次々とこの世を去って行ってしまうことは、本当に残念なことですが、きっといまごろ天国では、オールスター勢揃いによるスーパー・フラメンコ・フィエスタ(パーティー)が繰り広げられていることでしょう。