Piedra Sola  - ひとりぼっちの石-

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 III


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海、山、風、川、森、平原、木々、花々、そして動物たち。
自然界のなかでともに生きるものたちとの心のふれあいを美しい詩にたくして謳いあげたアタウアルパ・ユパンキ。


以前、さすらいの旅人と、それを見守る木々との素晴らしい心の交わりをテーマにした'郷愁の老木'についてふれました。

今回は、前述の'ギターラ'と同じく私の愛読書であり、ユパンキ名作詩集である'ひとりぼっちの石 (ピエドラ・ソラ)'のなかから、路傍にひっそりと佇む、まるで忘れ去られてしまったような石との心のふれあいを謳った、同タイトルによる作品をご紹介したいと思います。


'ひとりぼっちの石'は、詩集のトップにある、'デディカトーラ'とよばれるユパンキ自身による献呈文のあと、この名作詩集の冒頭を飾る作品としておさめられています。

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詩集'ひとりぼっちの石'より デディカトーラ (献呈文)

俺の大地よ!


お前の抱く山々の 
その道の上で
俺の心は これらの言葉に出会った


その 大いなる
その 決して言語におきかえることのできないものが
俺のなかに宿った


まるで お前がもつ
静けさにみちた 宇宙のような力に 
奥深く守られた 音楽の調べのように

 
            
            - アタウアルパ・ユパンキ

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2007年09月23日 | El Mundo Maravilloso de Las Poesias |

Tierra Del Sueño - 夢の地 'ラ・リオーハ'

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界 II



私はこれまでに、アルゼンチンの多くの地方を旅して見聞を広め、そしてできるだけたくさんの美しく力強いフォルクローレの調べを体のなかに、そして血の中にしみこませようと努力してきましたが、結果それは、3年前に行った、'フォルクローレのゆりかご'と呼ばれるサルタにおける公演において、私のキャリアの第一段階としての頂点を招きむかえてくれたかのように思えました。

そんな私が、いまだ訪れたことのない美しい土地。
それが、ビダーラ(ビダリータ)、チャジータといった独特の調べと豊かな自然、そして広大なブドウ畑をその胸にいだく、ワインの名産地として知られる'ラ・リオーハ'地方です。


(写真は、私のサルタ公演を報じた、'エル・トリブーノ紙'。
'日本人ギタリストとユパンキ作品'という見出しで、素晴らしいユパンキの写真が使われています。
ユパンキは生前、母国のアルゼンチンや隣国のウルグアイでは、'Don Ata(アタ親分)'と、親しみをこめて呼ばれていました。)

そのアタ親分が、ラ・リオーハによせた素晴らしい詩をご紹介します。

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2007年08月17日 | El Mundo Maravilloso de Las Poesias |

Quisiera Tener Un Monte

アタウアルパ・ユパンキの素晴らしき詩の世界



前述の'De Tanto Dir y Venir'同様、私を深く魅了するのが、やはりユパンキ晩年の録音による傑作曲、'Quisiera Tener Un Monte (山がほしい)'です。

Quisiera Tener Un Monte

山がひとつほしい とある里に
夕べに 美しい木の若枝にかくされた巣を守る
鳥たちの歌声を聴くために

山がひとつほしい
静けさが歌を紡ぐ 清らかな時間に
ギターを連れて歩くために

山の奥深く 奥深くへと 俺は歩いてゆく
そして とある木の枝のうえに ギターを眠らせる
するとやがて つがいの鳥たちが そこに巣を作るだろう
俺の影が 野にひとり
孤独とともに 消えてゆくあいだに


ユパンキは生前、
"私は以前、自分の前世は風だと思っていました。しかし、実は最近、風ではなくて木ではなかったのかと思っています。”
ということを言ったのですが、それを聞いた人が、
"なんの木だったのでしょう?"
と尋ねたところ、ユパンキは真顔で、
"いま研究中です。"
と答えたそうです。


彼はこの詩を書いた時点で、おそらく人としてではなく、木としてふたたびまた生まれ変わることを感じていたのではないでしょうか。


私も最近、この人はほんとうに木だったのではないかと思っています。

2007年08月10日 | El Mundo Maravilloso de Las Poesias |

De Tanto Dir y Venir

'夢見ながら歩くものたち'とともに



'栗毛の馬'や'牛追い'、'牛車にゆられて'、'眠れるインディオの子'、そして'トゥクマンの月'などの名曲の数々を、決してコンサートにおいて欠かすことのできないたいへん重要なレパートリーとして持ち、これまで数多くのユパンキ作品の研鑽、演奏を続けてきた私ですが、実はこのところ、2005年春の東京オペラシティーでの二回公演の際に演奏した、'微笑みながら坊やは眠る'のそれ以来、新たなユパンキ作品をレパートリーにとりいれる作業から二年半ほど遠ざかっていました。


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2007年08月09日 | Hombres Grandes,Criollos Fantasticos /El Mundo Maravilloso de Las Poesias |

'歌いながら人生を'

日本語訳によるアマリア・ロドリゲス詩集

ああ 私の故郷(ふるさと)の人々よ
今だからこそ わかります
私の抱いている この悲しみは
あなた方から受け継いだものなのですね

私とあなた方のこの運命は
私たちを繋ぐ縁(えにし)なのです
どんなに否定されようと
同じギターラに張られた弦なのです

奏でられるギターラの
うめくような音を聴くたびに
我を忘れて
泣き出したい気持ちになるのです

そして 静かに身をゆだねていますと
優しさに包まれるようです
苦悩が深ければ深いほど
私は歌って悲しみを和らげるのです


(「故郷(ふるさと)の人々よ」 彩流社 "アマリア・ロドリゲス詩集/歌いながら人生を"より。

より)

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2007年07月25日 | El Mundo Maravilloso de Las Poesias |

El Arbol Que Tu Olvidaste − 軽井沢編



今回の日本滞在中、私は仕事をまったくはなれ、軽井沢に三日間滞在しました。
子どもの頃、毎年ひと夏を過ごしたこの美しい土地は私にとって第二の故郷のようなものです。
写真は、30年ぶりに訪れた当時の別荘。私はここで毎日澄んだ空気を吸いながら、自転車を駆って一日中走り回ることによって、現在の丈夫で健康なからだを得られたと思っています。
私はこの木が大好きでした。彼もきっと私をおぼえてくれていたでしょう。

"きみが忘れてしまった故郷の木は いつでもきみをおぼえている
そして夜毎に問いかける 幸せでいるかい それとも..."

子どもの頃過ごした土地との30年ぶりの再会で、私はユパンキの傑作曲、'郷愁の老木'の歌詞を思い出し、いつしか胸をあつくしていました。


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2007年04月04日 | El Mundo Maravilloso de Las Poesias |

El Gran Poeta Granadino

日本へ出発する日が近づいてきました。今回の最初の仕事は、着いてすぐの3月17日に広島で開催される、広島スペイン協会の設立セレモニーへのご招待を受けての演奏です。

当日私は、スペインに縁のあるナンバーを数曲披露するつもりですが、そのなかのひとつとして、アルゼンチンのユパンキと、グラナダが生んだ大詩人、マヌエル・ベニーテス・カラスコ(1922-1999)の共作による「El Niño Duerme Sonriendo - 微笑みながら坊やは眠る」を予定しています。
カラスコの詩作は、日本でほとんど紹介されていないためとても残念ですけれど、現在セビージャの中心地には、彼の名を冠した通り、Avenida Poeta Manuel Benitez Carrascoがあるほどで、やはりグラナダに生まれた、世界的にその名を知られる大詩人、フェデリコ・ガルシーア・ロルカ同様、このカラスコの名はいまもアンダルシアの人々の誇りなのでしょう。

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2007年03月10日 | Hombres Grandes,Criollos Fantasticos /El Mundo Maravilloso de Las Poesias |

今はなきワールドトレードセンターでのインタビュー

2001年の8月に、ブエノスアイレスの人気テレビ番組‘Canal 5 de Vicente Lopez’で放映された私のインタビューがあります。
実はこれは、あの恐ろしい惨劇をそのちょうど二ヶ月後に迎えることになる、NYワールドトレードセンターのツインタワーを見上げるプラザの一角で行われたものでした。
ここにその放送が収録されたビデオテープがあり、これには私の映像に加えて美しいツインタワーのショットが挿入されているのですが、私はこの街にきて間もない頃、タワーの屋上に登って、はるかに広がるマンハッタンを見下ろしながら、“これからよろしくたのむぞ”などと祈ったものでした。
その後ニューヨークは、ただひとりでそのふところにとびこんできた若者の願いを聞いてくれ、数多くのプレゼントをしてくれました。
あの9月11日の朝、このタワーが崩れ去った瞬間、私はまさに胸をえぐりとられるような思いでした。
インタビューに答えている私を見下ろす美しい姉妹のようなツインタワー、こんなかたちで想い出のなかにのその姿を残すのみとなってしまった運命を考えると、もういまこのビデオを観ることはできません。
今年、4年めを迎えるナインイレブン、その日私たちニューヨークに暮らす者は、もう二度とこんなことが世界のいかなる場所ででもおこらないように祈るのです。

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2005年09月11日 | El Mundo Maravilloso de Las Poesias /Shiro On Air |

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