サルタの誇り高きガウチョと心優しき詩人
音楽家ならば、一生涯忘れられないコンサートというものが誰にでも必ずあることでしょう。
私にとってのそれは、3年前、アルゼンチン北部に位置する美しい町、’フォルクローレのゆりかご’と呼ばれるサルタ市 で行った公演です。
私はこの公演が決まったとき、以前からレコードで親しんでいた、サルタ出身の(ロス・チャルチャレーロスや、ロス・トゥクトゥクなどと双璧をなす北部-ノルテーニャ-スタイルを代表する)フォルクローレ・グループ、‘ロス・カントーレス・デル・アルバ’ の代表曲のひとつであるサルタ賛歌、’Mi Traje de Gaucho(俺のガウチョ服)’をぜひ演奏しようと思いました。
そこで現地の主催者に連絡したところ、なんと、やはりサルタ出身で、このナンバーの作詞者である、ペドロ・セルバンド・フレイタ さんご自身から楽譜が送られてきてまずビックリしたのですが、これに加えてさらに当日は、これまたサルタ出身の伝説的フォルクローレ・グループ、’ラス・ボセス・デル・オラン ‘の創設者であるフォルクロリスタ、マルティン’ピティン’・サラサールさんが全面的にサポートしてくれるとのニュースに、私はすっかり感激してしまったのです。
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‘夢見ながら歩くものたち’とともに
‘栗毛の馬’や’牛追い’、’牛車にゆられて’、’眠れるインディオの子’、そして’トゥクマンの月’などの名曲の数々を、決してコンサートにおいて欠かすことのできないたいへん重要なレパートリーとして持ち、これまで数多くのユパンキ作品の研鑽、演奏を続けてきた私ですが、実はこのところ、2005年春の東京オペラシティーでの二回公演の際に演奏した、’微笑みながら坊やは眠る’のそれ以来、新たなユパンキ作品をレパートリーにとりいれる作業から二年半ほど遠ざかっていました。
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私が現在、ギタリストとして国際的活動を続けていられるのは、少年時代にしっかりとしたクラシック・ギターの手ほどきをしてくださった鈴木巌(すずきいわお)先生のおかげです。
鈴木先生は、日本の音楽史上、海外における国際コンクール(1957年、モスクワ国際ギター・コンクール)で第一位グランプリに輝いた、わが国最初の音楽家です。
何年か前に、当時の鈴木先生の演奏の録音を聴かせていただいて、もうとにかくそのすごさに圧倒されたものですが、”ギターは美しい音色の楽器だよ。テクニックはあくまでもそれを表現するためのものでむやみやたらに誇示するものではない。”という先生の考え方は、いまも私の音楽のなかに、長年にわたってしっかりと息づいている大切な言葉です。
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日本へ出発する日が近づいてきました。今回の最初の仕事は、着いてすぐの3月17日に広島で開催される、広島スペイン協会の設立セレモニーへのご招待を受けての演奏です。
当日私は、スペインに縁のあるナンバーを数曲披露するつもりですが、そのなかのひとつとして、アルゼンチンのユパンキと、グラナダが生んだ大詩人、マヌエル・ベニーテス・カラスコ (1922-1999)の共作による「El Niño Duerme Sonriendo – 微笑みながら坊やは眠る」を予定しています。
カラスコの詩作は、日本でほとんど紹介されていないためとても残念ですけれど、現在セビージャの中心地には、彼の名を冠した通り、Avenida Poeta Manuel Benitez Carrascoがあるほどで、やはりグラナダに生まれた、世界的にその名を知られる大詩人、フェデリコ・ガルシーア・ロルカ 同様、このカラスコの名はいまもアンダルシアの人々の誇りなのでしょう。
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2007年から私のコンサートプログラムにおいて、他の南米フォルクローレ音楽とともにプログラムを飾ることになるのが、ブラジルが生んだ大作曲家、エイトル・ヴィラ=ロボス のギター作品です。
ヴィラ-ロボスは、故郷の美しい海や大地の調べに対し最大の愛を捧げつつ、それらを敢然と芸術的レヴェルへと昇華させ、さらに彼自身生涯傾倒してやまなかったJ.S.バッハの音楽との融合を大胆に試みた末に至高のオリジナル・アートを完成させた、まさに20世紀の芸術音楽の世界に文字通り南米の熱い新風を吹き込んだ偉大なる作曲家です。
その膨大な作品のなかにいたっては手がけたギター曲は決して多いとはいえませんが、それまでソルやタレガといったスペインのギター・ジャイアンツが築き上げてきたヨーロッパの格調高い調べに、さらに新時代を思わせる革新的な奏法と魅惑的なサウンド・コーディネーションを与え、その結果、現代ギター音楽の最高のレパートリーの数々を作り上げた功績は、たとえもし彼がギター音楽だけの作曲家だったとしても、それは最大の賛辞に値する大芸術家です。
(エイトル・ヴィラ-ロボス 1887-1959)
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アンダルシアのレモンと、イタリアの濃厚なハチミツに、アタウアルパ・ユパンキの魂が溶け合う、静寂のグロリエータ(四阿)「カンテホンド・イベロアメリカーノ」の音楽世界